こんな方におすすめ
- 『ブレイキング・バッド』を見ようか迷っている方
- ネタバレなしで感想を知りたい方
- アメリカの地方都市の生活が知りたい方
ネタバレなしと言っても、公式サイトに記載されたあらすじ程度は述べていますのでご了承ください。
今さらだけど『ブレイキング・バッド』って何?
『ブレイキング・バッド』はアメリカのテレビドラマシリーズです。
08年から13年にかけて、全5シーズン(全62話)が放送されました。
製作はヴィンス・ギリガン。本作品の企画、製作総指揮、脚本、監督を務めました。
数々の権威あるテレビドラマの賞(トニー賞やゴールデングローブ賞)を総ナメにするなど、大反響を巻き起こしました。
最終章のシーズン5は、ギネス世界記録でも「歴代で最も高く評価されたテレビシリーズ」として認定されました。
史上最高の米国テレビドラマとも称される傑作ドラマです。
タイトル『Breaking Bad』はアメリカ南部の方言(俗語?)で、『道を踏み外す』という意味です。
ストーリーを簡単に説明します。
舞台は2008年のアメリカ南部の地方都市、ニューメキシコ州アルバカーキ。
内気で温厚な高校の化学教師ウォルター・ホワイトは50歳。
脳性まひの長男と、10歳近く年の離れた妻スカイラ―は第二子を妊娠中。
良き父、良き夫として教師の傍ら洗車場のアルバイトにも精を出すウォルター。
そんな中で宣告される余命二年の「末期の肺がん」と高額な治療費。
「人生が行き詰った」高校教師が、ひょんなキッカケから麻薬の精製に手を出したことに始まるクライムサスペンスです。
個人的には寝ても覚めてもこの作品のことばかり考えるほどハマりましたが、合わない人にはとことん合わない作品です。
「ブレイキング・バッド」視聴をオススメできない方・見ない方がいい方
人の感性はそれぞれ違います。
どんなに名作と言われている作品でも、感性の合わない人には刺さらないものです。
「ブレイキング・バッド」も例外ではありません。
私にとっては間違いなく大傑作ですが、ネット上では「期待外れ」「過大評価」という声も聞かれます。
合わない人の傾向を以下にまとめてみました。
痛快な娯楽を求めている方
美男美女が出てきてスカッと痛快なアクションは、この作品にはありません。
人によっては退屈にも感じられるような、ホームドラマが本作品の主軸だからです。
それぞれの視点から見た、それぞれの家庭事情。
これらが重層的な積み重なり、数々の犯罪行為と絡み合う。
思わぬところに張り巡らされた伏線がビリヤードのように弾き合い、ストンと落ちる。
これが本作の醍醐味なのですが、ピンとこない人には分からないものです。
特に序盤はスローテンポで物語が進行していきますから、退屈と感じる人もいるでしょう。
それと主人公の妻スカイラーの言動は、独身の若年層にはイラっと感じるかもしれません。
妻帯者の男性には「まあ…結婚ってそんなもんだよな」と苦笑いで済むかもしれませんが。
特に高評価に釣られて観た人はシーズン1のホームドラマの展開に「期待外れ?」と思ってしまう可能性さえあります。
「このドラマは派手な爆発よりもゆっくりと燃焼することを選んだ。その選択ゆえにより熱いのだ」
タイム誌によるシーズン3の評価
「冗長」なホームドラマのパートもキチンと計算された構成になっており、後々ズシンと効いてきます。
ですが、初めから終わりまでスッキリ痛快なドラマを求めている人には向かないでしょう。
暴力シーンが苦手な方
暴力シーンが頻繁にあるので、苦手な方は見ない方が良いでしょう。
それも、痛快ではなく陰惨な暴力シーンがほとんどです。
痛いです。
頻度は高くありませんが、グロテスクな描写もあります。
いわゆる胸糞展開もあるので、合わない人はとことん合わないでしょう。
回を重ねるごとにスリリングな展開になっていくので、精神的に見てられない人もいるかと思います。
犯罪をテーマにしたドラマなので、重く陰鬱なシーンもあります。
人によっては「見なきゃよかった」と思う方もいるでしょう。
世界最高峰のドラマではありますが、暴力シーンが苦手な方は要注意です。
また、小さなお子様と一緒だとトラウマになるかもしれませんので、くれぐれも大人だけでのご鑑賞をお願いします。
主人公が犯罪者であることが許せない人
止むに止まれぬ事情があるにせよ、麻薬の製造は重大犯罪であり、決して許される行為ではありません。
ネタバレになってしまうので詳しくは書けませんが、主人公ウォルターが関わった犯罪行為の数々には弁解の余地はありません。
完全無欠のヒーローが好きなタイプは、この作品の視聴は向いていないと言わざるを得ません。
日本の一部の視聴者にとっては、主人公は清廉潔白でなければならないという考え方も根強く残っていますし。
よかれと思った行動が裏目に出て次々に起こるトラブルも、自業自得と見る向きもあるかと思います。
「主人公の行動は常に正しくあるべきだ」
そう考える人は見ない方が賢明でしょう。
「ブレイキング・バッド」を絶対に見たほうがいい人たち
…と、ここまで視聴者を「ふるい」にかけるような文章を連ねてきましたが、向いてない方以外は、是非見てほしい歴史的な傑作です。
役者の演技も凄いですし、脚本の練り込み方も凄い。
音楽の使い方や選曲のセンスも素晴らしい。
リーマンショック後のアメリカ地方都市の実情を見事に描写しています。
同時に白人の中産階級が抱える諸問題をかなり的確に描写していると思います。
アメリカという国がわかったような気になる点も面白いです。
極端な話ではありますが、『24』の黒人大統領デイビッド・パーマーのイメージが先行してオバマ政権誕生につながったように、
「ブレイキング・バッド」で描かれた白人中間層の無力感、怨嗟の声がトランプ政権誕生に付与した影響も否定できません。
もちろんドラマはフィクションですので鵜呑みは禁物ですが、とてもリアリティがあり説得力のある作品です。
アメリカを知る格好の資料としても「ブレイキング・バッド」の世界観は際立っています。
ストーリーに絡んでくるアメリカの実情を補足してみると…
アメリカの地方では財政が破たんしている都市が多いので教育費が高騰しています。
一方で高校教師の給料は安い(日本円に換算して年収500万円)
しかし子供1人あたりを大学まで行かせると約2000万円かかるとも言われています。
国民皆保険制度はないのでガンになった際の治療費も高額(〜数千万円)
州によって違いますが、単なる風邪でも初診料は15,000円〜。
気胸と診断され10日間入院・手術したでも場合によっては1200万円もの治療費が発生したケースもあります。
大金持ちでなければ病気になると「人生が詰み」かねないリスクが常にある国なんですよね。
このような予備知識があると、主人公が直面した現実の深刻度が増すのではないでしょうか。
表現者を目指すには避けては通れない作品
ドラマに限らず、マンガや小説、ゲームなどの制作を志す方は押さえておくべきシリーズです。
ご自身の作風と違っていても、良い作品を観ることは制作者の精神的な財産になるからです。
事実、世界的に著名なクリエイターたちが「ブレイキング・バッド」を絶賛しています。
たとえばゲームデザイナーの小島秀夫監督は以下のツイートをしています。
「ブレイキング・バッド」ファイルシーズン最終話を観た。なんとも言葉には出来ない。シーズン1時点からわかっていたが、これを超えるTVドラマはもはや現れないだろう。メイキングとNG集を観て癒されはしたが、もう彼らに逢えないと思うと寂しい。 pic.twitter.com/UTrXfVtFqA
— 小島秀夫 (@Kojima_Hideo) November 16, 2014
ネタバレになるのでストーリーについての言及は避けますが、物語を作る上でとても大事な事が学べます。
・ストーリーがキャラクターの思うように進まない事。
・見る人の想像の斜め上を行く展開を見せながら、納得できる結末を用意すること。
脚本や演出を志望する人は登場人物の「心の変化」に着目して観るとより得るものがより大きいです。
良いストーリーとはキャラクターの心が変化していく流れが鮮やかに描かれているものです。
伏線の回収だけでなく、人物の心の動きに着目して観ると、いかにこのドラマが優れているかが分かります。
濃いキャラクターが多数登場する
ストーリーもさることながら、本作品を彩る濃いキャラクターたちも特筆すべきでしょう。
皆ひとクセもふたクセもある個性的なルックスです。
登場人物のほとんどが悪人のドラマですが、各々とても人間臭くキャラクターとして厚みがあります。
演じる役者たちの芝居の見事なこと!
役者志望は必見です!
主演のブライアン・クランストンが演じる化学教師ウォルターの心の変化、父親としての思い、犯罪、ジェシーに対する複雑な感情などは圧巻の一言です。
かの名優アンソニー・ホプキンスはクランストンの演技を「生涯見たものの中で最高のものだった」と絶賛しています。
他にも、一度見たら忘れられないような強烈なキャラクターが目白押しです。
15年には作中に登場する悪徳弁護士ソウル・グッドマンが主人公の『ベター・コール・ソウル』シリーズが作られました。
製作は本編と同じヴィンス・ギリガンで、現在シーズン4までが放映しています。
20年にはシーズン5が放映される予定です。
音楽の使い方がカッコいい
『ブレイキング・バッド』のテーマ曲は一度聴いたら忘れられない耳に残る音です。
♪デュヨーン、デュヨーン、デュン、シャーン……
不穏で、不気味なリズムが良くないことが起きた感じを連想させます。
様々なアレンジがなされ、各話のラストを締めます。
その他ドラマ内で使われる挿入歌、選曲のセンスも素晴らしい。
カントリーからヒップホップ、R&B、ジャズ、ボサノヴァ、エレクトロ等がストーリーに花を添えます。
メキシコのギターデュオ、ロドリーゴ・イ・ガブリエーラからソウルシンガーのダロンドまで新旧を問わず幅広いジャンルの楽曲が使われています。
最終話に使われたブリティッシュロックバンド、バッドフィンガーが72年に発表した名曲『ベイビー・ブルー』は、放送直後の一晩で5000回もダウンロードされたとか。
日本のテレビドラマを批判する意図はありませんが、「ここは感動するシーンですよ」と説明してくれるようなBGMの使い方は全くしてません。
時にシニカルに、映像とリンクする表現として音楽が使われており、とてもクールです。
続編『エルカミーノ: ブレイキング・バッド THE MOVIE』についての注意点
13年に完結した『ブレイキング・バッド』の続編である『エルカミーノ: ブレイキング・バッド THE MOVIE』は19年10月11日よりNetflix(ネットフリックス)で全世界に独占配信されています。
この作品は『ブレイキング・バッド』本編を視聴していることが前提となっておりますので視聴の際はご注意ください。
ネタバレになってしまうので、本編については語ることはありません。
まとめ
以上ネタバレなしで「ブレイキングバッド」の魅力を語ってみました。
ストーリーと俳優の演技が素晴らしいのは言うまでもありません。
アメリカという国を知るためにも格好の資料的な価値のある作品です。
未見の人が参考になれば幸いです。