「最近の歌手はよくわからない」
「いまの音楽は好きじゃない」
子供の頃、周囲の大人たちがそんなことを言っていたのを覚えている人もいるでしょう。
実際に自分が年を取ってみて、新しい音楽を聴かなくなったという人もいるのではないかと思います。
「好奇心の窓」という言葉があります。
人間の好奇心は年齢と共に閉じていき、いつしか新しいものに関心がなくなったりすると言われています。
本当でしょうか?
確かに幼少期に受けた影響は拭い難く一生を左右するほどであります。
日本には「三つ子の魂百まで」ということわざもありますし。
一方で年を取ったら感性は衰えて「終わって」しまうのでしょうか?
自身を含めたいくつかの事例を紹介しながら、加齢とともに変化する感性について考察します。
なぜ年を取ると新しい音楽を受け入れられなくなるのか?
なぜ年を取った人はいつも同じような音楽を聴く一方で、新しい音楽には興味を持たないのか?
そんな素朴な疑問は多くの人が抱いているのではないでしょうか?
ノックス大学心理学教授のフランク・T・マカンドリュー氏の考察を引用します。
マカンドリュー氏の父親は、マカンドリュー氏が10代のころ好きだった音楽にあまり興味を持たなかったそうです。そして、その態度は父親が80代になっても変わらず、「新しい音楽」とは呼べないビートルズの曲を使ったCMを見て「いまの音楽は好きじゃない」と言っていたとのこと。マカンドリュー氏は、この傾向が自分の父親だけではなく、年配の人にはよくみられるものであることを知り、その原因を探りました。
引用元:GIGAZINE なぜ年を取ると新しい音楽を受け入れられなくなるのか?
日本でもこれは当てはまる場合が多いのではないでしょうか。
私の祖母は大晦日になると「紅白は若い者ばかりで分からない」と言って『年忘れ にっぽんの歌』を見ていました。
ちなみに祖母は80歳を過ぎてから氷川きよし氏のファンになりました。
しかし純烈には興味を示さなかったので、演歌以外の音楽のジャンルは受け付けなかったのでしょう。
昭和の時代は長かったので、大ざっぱに以下のように分類できるのではないかと。
・美空ひばりや石原裕次郎の世代。だいたい70~80歳以上の年代。
・続くフォーク世代やキャンディーズ、山口百恵等の70年代アイドルのファン層は60歳~70歳くらい。
・松任谷由実等のニューミュージック世代は50歳~60歳くらい。
・松田聖子等の80年代アイドル世代やBOOWY等のバンドブームのファンの中心が40~50歳くらい。
年号が平成になると、J-POP時代に移り変わります。
・90年代の小室哲哉全盛期、ミスチルやBz、安室奈美恵等のファン世代は30~40歳くらいでしょうか。
もちろん+-はあるかと思いますが、大ざっぱにこんな感じでしょうか。
CD全盛期の90年代に活躍したアーティストの楽曲も、今後リアルタイムで聴いていた世代が年を重ねるとともに使われていくのでしょう。
00年代になると音楽業界そのものが激変していきます。
ネットの一般化、10年代のスマホの普及の影響で趣味が多様化してヒット曲が生まれなくなりました。
世代の共通認識としてのヒット曲は今後ますます生まれにくくなるでしょう。
しかも現在はyoutubeなどで検索すれば古い曲でも当たり前のように聴ける時代でもあります。
好奇心があればどんどん楽曲を探すことが容易になっています。
音楽を取り巻く環境の変化が、若い人たちにどう影響を与えるか、個人的に楽しみです。
1つは、生物学的に、コードやリズム、メロディの微妙な違いを聞き分ける能力が年齢とともに低下するからだと考えられます。音楽の好みというのは10代前半に固まりはじめ、20歳ごろにがっちりと固まるので、この期間に耳にするヒット曲は、同じ世代の中では一生人気が続く可能性が高いです。
引用元:GIGAZINE 前掲ページより
若者のテレビ離れが言われて久しい中、テレビの歌番組は中高年向けに作られたものが多いでしょう。
CMで使われる曲も一部の新曲を除いたら、CM制作者たち(30~40代くらい)の青春時代に流行った曲が使われることが多いでしょう。
たとえば18年の東芝のCMで有村架純さんが起用されTHE BLUE HEARTSの『情熱の薔薇』を歌うシーンがあります。
ブルーハーツが世代を超えて聴かれていることもあるでしょうが、作り手の年代やターゲットの年齢層と合わせての選曲ではないでしょうか。
おそらくこの年代がシニアになっていくにつれて、年金や保険などのCMにブルーハーツの楽曲が使われることもあるかも知れません。
一方、33歳になるころには新たな音楽を聴くことはほぼなくなります。このため、それ以降に新たに耳にした、自分があまり知らない音楽はすべて同じように聞こえてしまっていることが考えられます。
引用元:前掲ページより。傍線は筆者
個人的にはこれは極端な意見かなとも思います。
どちらかといえば個人差が大きい事例ではないかと思います。
たとえば音楽を仕事にしている方や、若者をターゲットにしたマーケティングを担当している方などは知らない音楽が「すべて同じように」聞こえることはないでしょうし。
ただ好んで聴いている音楽ジャンルが偏ってくる、というのは一理あるかも知れません。
音楽などの嗜好と年齢の関係を研究したアメリカの行動生物学者ロバート・M. サポルスキー氏によると「人は人生の中で20歳を過ぎると音楽の好みに対する『好奇心の窓』が閉まり始める」そうです。
食べ物やファッションについても同様だそうです。
過激なファッションについては23歳までが限度だとか。
新しい食べ物への挑戦は39歳が限度とも言っています。
しかし、食べ物について異論があります。
食べるラー油やおからパウダーは中高年にも定着しましたし、
テレビで紹介する新商品は年齢層の高い消費者も受け入れるでしょう。
朝のコンビニでバスク風チーズケーキを手にする高齢者も目にしたことがあります。
お孫さんと一緒にタピオカミルクティーを好む方も実際に存じ上げております。
「こんなの誤嚥しちゃうよ」と言ってましたが。
食べ物に関しては半分正しい程度の認識で良いのかもしれません。
年齢と共に変わる環境
ここでは感性の変化はいったん置いて、単純に年齢と共に変化する環境を追いかけてみましょう。
多くの人が、年齢を重ねるごとに生活環境が変わります。
そうなると単純に使える時間が変わっていくのは必然です。
10代で学生時代ですと、休み時間や放課後などクラスメイトたちとの接点が多くなります。
これらの他愛もない会話には「メディアで話題になっているもの」が媒介として使われます。
クラスや友人グループ内で流行っている音楽など、未知のミュージシャンとの出会うキッカケに溢れているでしょう。
しかし進学などで故郷を離れたり、帰郷せずに就職したりする場合は友人環境がガラリと変わります。
地元で進学して就職するパターンであっても、就職したばかりですと、ほとんど仕事に忙殺されて改まって音楽を聴こうなんて思うことは稀になるかもしれません。
通勤時間などで音楽を聴くこともあるかとは思いますが、よほどの音楽好きでもない限り未知のアーティストの新譜を追いかけたりはしなくなるでしょう。
基本的には学生時代に好きだったミュージシャンの楽曲を聴くことが多いのではないでしょうか。
ただ、14歳からカウントしたとしてこの頃までに10年。
学生時代に好きだったアーティストが新人だったとしても既にベテランの域です。
10年続けて新作を出し続けている人たちはきわめて稀でしょう。
大抵は新曲の制作ペースが2、3年置きになるか、活動を止めてしまう人たちが多いでしょう。
この辺りで音楽から離れてしまうファンも少なくないはずです。
結婚して子供が生まれたりすれば、ますます音楽から遠ざかるケースが多いかと思います。
しかしここで逆転現象が起こります。
子供が好きな音楽などを通じて、自分も好きになるケースも起こり得ることでしょう。
米津玄師氏のパプリカ等は、子供の影響で好きになったお父さんやお母さんも多いのではないかと思います。
企業に籍を置く人では年齢と共に責任のある立場に就く人も多いと思います。
やはり考えることと言ったら仕事がメインで、どうしても趣味は息抜き程度に考えてしまうのではないでしょうか。
よほど音楽マニアかトレンドに関連する仕事でもない限りは、昔の曲を聴いて癒されたり気分を鼓舞したりする聴き方がメインになるのかと思います。
ざっと環境の変化だけを追ってみても、基本的には私たちが新しい音楽や文化から縁遠くなるのは必然的なのかもしれません。
感性は衰えるのか? 感性のピークとは? フルカワユタカ氏の考察
人間は33歳から感性に訴える新しいものを探さなくなり、35歳を超えると完全に興味を失う”という“感性の死期説”
現役のミュージシャンはどう考えているのでしょうか。
97年に結成して12年に解散したスリーピース・ロックバンドDOPING PANDA(ドーピング・パンダ)のフロントマンで、現在はソロとして活動するフルカワユタカ氏は、
ちょうど34歳の時にバンドの解散を経験しています。
87年に結成したBLANKEY JET CITY(ブランキー・ジェット・シティ)が解散したのは00年。当時浅井健一氏は36歳。
90年代に大活躍したTHE YELLOW MONKEY(ザ・イエロー・モンキー)も活動休止したのは01年。吉井和哉氏が35歳の時です。
※イエモンの正式解散は04年。再結成は16年で現在も活躍中です。
ナンバーガールは02年に解散。フロントマンの向井秀徳氏が29歳の時でした。
※ナンバガは19年に再結成しました。
00年代の毛皮のマリーズは11年フロントマンの志摩遼平氏が27歳の時に解散しています。
27歳といえばジミ・ヘンドリックスやジョニス・ジョップリン、カート・コバーン等、多くのロックスターたちが世を去った年齢でもあります。
いわゆる「27クラブ」に関しては別記事を準備中です。
27歳から35歳にかけて活動休止や解散を決断したバンドは数多く、挙げきれないほどではないでしょうか。
逆に35歳以上でバンドを存続させているグループは、よほどの事がない限りまず解散はしないでしょう。
ついロック系に話題が偏ってしまいましたが、安室奈美恵さんは40歳で歌手を引退しています。
人気グループ嵐は20年12月31日をもって(無期限の)活動休止を宣言しました。
メンバーの年齢層は36-39歳。
男女混合ダンス&ボーカルグループのAAA(トリプルエー)も20年いっぱいでの活動休止を表明しています。
メンバーの平均年齢はおおよそ33歳でした。
活動を続けるにせよ、多くのミュージシャンが年齢を重ねるとともにアルバムの制作ペースに何年もかけるようになったり、かつての勢いは薄れていく場合も多いでしょう。
その分、楽曲の完成度や円熟味などは増していきますけれども。
フルカワ氏は語ります。
クリエイティブのピークを迎える時期というものが実は僕たちにはあるのかもしれない。感性のピーク年齢というものが。
これは何も音楽に限っての話ではなく、漫画家やイラストレーターなどにも当てはまるでしょう。
さて話をフルカワ氏に戻します。
彼は、年齢と共に変化した音楽の聴き方について次のように語っています。
僕はミュージシャンなので当然35歳を超えても音楽を聴く。しかも沢山聴く。だが、明らかに10代20代の時と今とでは摂取の仕方が違うと感じている。いつの頃から変わったのか。
引用元:
現在41歳のフルカワ氏は、年齢とともに変化する自身の感性の変化も赤裸々に語っています。
10代半ば、洋楽に出会った僕は(あの青いソニーの)CDウォークマンを通して無我夢中でロックを漁った。20代後半、とにかくCDを買って音楽を聴いてがむしゃらに飲み込んでがむしゃらに吐き出した。30歳を越えて誰かの斬新さや挑戦を心の底から新しいとは感じられなくなっていった。自然に出てきてくれなくなった“新しいもの”を考え込むようになった。
引用元:前掲ページより
このような感性の変化は、多くのミュージシャンが語っているところでもあります。
実際に30歳を過ぎた頃に作風をガラリと変えてしまうアーティストもいるでしょう。
この年代のミュージシャンの多くが20代以上に楽曲制作に試行錯誤したり、哲学や問いのような内省的な歌詞を書いたりすることもあります。
逆に、それまでとは打って変わって歌詞をシンプルにする例もあるでしょう。
しかし30代半ばの「感性の変化」を乗り切ったアーティストにはある種の「悟り」もしくは「開き直り」とも取れる境地に落ち着くようです。
僕の感性はこれ以上変わらないのだろうか。もう挑戦や革新は僕には出来ないのだろうか。でも、不思議とあの頃のような失望や焦燥感はない。これが40代の境地というものか。
友人・知人のケースを紹介
友人・知人のケースを紹介しておきましょう。
30代の女性ですが、歌詞が耳についてインストゥルメンタルの曲しか聴けなくなったそうです。
激しい曲も苦手になり、以前聴いていたパンクやオルタナも聴けなくなったとか。
最近はもっぱらボサノヴァや環境音楽などを愛好しているそうです。
それとは真逆な例も紹介しましょう。
40代の男性で、すごくまじめな会社員です。
KOEIの歴史シミュレーションゲームが好きでオタク的な資質はありますが、結婚を機に趣味をほぼ封印して家庭人として通してきました。
子供にも恵まれ、管理職にも就き、家族のために働く立派な御仁です。
そんな彼が、ひょんなキッカケでボカロにどハマりしました。
それまで動画サイトにも縁遠く、さほど音楽にも興味がなかった人が、別人のようにボカロ曲を聴いています。
お子さんは玩具系のyoutuberに夢中で、ボカロには全く興味がないので子供の影響というわけでもなさそうです。
「歌詞もメロディも何もかもいい」
「もっと早い時期に聴いていれば良かった」
そんなふうに語る彼は、40歳を過ぎて出会った「新しい音楽」に心底感動しているようでした。
「33歳になるころには新たな音楽を聴くことはほぼなくなる」という説を否定する意図はありませんが、私の身近なところにもそんな人はいます。
60歳を過ぎてドラムをはじめた人もいます。
キッカケさえあれば、人はいつでもどんな風にも変わることができるのではないか?
そんな風にも思います。
まとめ
30代で訪れる感性の変化についてザックリと語ってみました。
私の場合はこんな稼業をしているので何とも言えません。
ただ、十代の頃はかなりひねくれていましてね。
現在もまあ社会不適合者ですが、当時は超めんどくさい奴でしたね。
ヒットチャートベスト10に入るような曲は敬遠していたり。
好きなミュージシャンでもテレビドラマのタイアップがついたとたんに「裏切られた」と感じて聴かなくなったり。
当時の音楽の聴き方は今流行っているものではなく、好きなバンドの音楽的なルーツを辿ったりする聴き方をしていました。
ハリウッドの大味な大作も苦手で、ヨーロッパの古い映画を見て「通ぶったり」してました。
漫画やアニメが大好きでもいわゆる「萌え」表現が苦手だったりしました。
30過ぎた今、確かに変わって来たなと思う点は昔よりも素直になったことでしょうか。
自分をとりまいていたわだかまりが日に日に消えていくのを実感しています。
「良いものは良い」と素直に思えるようになりました。
苦手だったアイドルだろうとジャニーズだろうと萌えだろうと、良いと思ったら素直に感動できるようになったことは良かったと思います。
あと食べ物も以前よりもおいしく感じるようになりました。
問題は自身に残された創造的な人生の持ち時間でしょう。
私の場合は幸か不幸かニュース漫画を主戦場にしていたため、感性を直にぶつけるような表現とは縁遠かったのです。
それがこのブログの執筆の影響もあり、日々感性を研ぎ澄ませる日常を送っています。
創造的人生の持ち時間は10年だ。芸術家も設計家も同じだ。君の10年を、力を尽くして生きなさい。
引用元:宮崎駿監督作『風立ちぬ』カプローニ伯爵のせりふより
自分がこの先どんな表現ができるのか分かりませんが、無理をせずいろんなことに挑戦して感動していきたいと思います。