90年代に公開されたアニメの中から、主にマニア・オタク層に向けて15本を厳選しました。
当時の時代背景との関連を考察しながら、アニメ史に影響を与えた名作を取り上げています。
劇場版やOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)が中心となっておりますので、キッズ向けの作品はほとんど含まれておりません。
また、90年代のマニア向けアニメ市場の特徴でもあるのですが、かなりの割合が男性向けに作られておりました。
バイオレンスシーン等の過激なシーンがあるものも紹介していますので、苦手な方はご注意ください。
本当は選びたかった『パーフェクトブルー』※1『A KITE』※2はR15作品(海外では18禁)のため外しました。
※1今 敏監督作品については00年代編で語っています。
※2梅津 泰臣氏の手がけるOP・ED演出については別記事を準備中です。
『0080ポケットの中の戦争』『銀河英雄伝説』は上位候補ながらギリギリ80年代(89年~)なので選べなかったのは残念です。
90年代という時代らしさ、当時でなければ表現できなかったテーマ、後世への影響力などを考えて厳選しました。
実験的な作品も多く選んだので、決して万人におすすめできる作品ばかりではないのはご了承ください。
これを見れば平成後期生まれでも90年代のオタクカルチャーを語れるのではないでしょうか。
まずは90年代の時代背景から考察していきましょう。
90年代アニメの特徴と時代背景をザックリと解説
90年代のアニメ界はどんな時代だったのでしょうか?
平成時代のオタク文化については以下の記事にまとめました。
90年代のアニメは大まかに3つの流れに分類されます。
・スタジオジブリ作品や『クレヨンしんちゃん』などファミリー層向けの劇場公開アニメ。
・『SLUM DUNK』『美少女戦士セーラームーン』『名探偵コナン』等のマンガ原作および『おじゃる丸』などのテレビアニメ。
・マニア向けのオリジナルビデオアニメーション※(OVA)
※『ロードス島戦記』などのファンタジー小説が原作のものや『天地無用!』などのオリジナル企画等、テレビアニメとは一線を画したもの。
劇場公開アニメは主に宮崎駿・高畑勲監督作品が日本テレビ系列とタイアップし、国民的なアニメーション作家としての地位を盤石なものにしつつありました。
この他おなじみの『ドラえもん』は原作者の藤子・F・不二雄氏が96年に他界された後も存続し、現在に続くシリーズとなっています。
映画版『クレヨンしんちゃん』原 恵一監督や『劇場版デジモンアドベンチャー』細田 守監督等、続く00年代以降に活躍する巨匠たちが頭角を現しだすのもこの頃です。
90年代と言えば「マニア向け作品をテレビで放送、制作費をビデオソフトの売り上げで回収する」というビジネスモデルが確立した年代でもあります。
具体例とすれば、ライトノベル原作の『スレイヤーズ』や、ファンタジーコメディ漫画原作の『エルフを狩るモノたち』などが挙げられます。
また、90年代は制作委員会方式がアニメ業界でも一般的になった時代です。
80年代~90年代のアニメ好き事情を語る上で欠かせないのが夕方の再放送枠です。
日テレ系でも夕方は『タイムボカンシリーズ』や『ルパン三世(TV第2シリーズ)』の再放送をやっていました。
そこになぜか『それいけ!アンパンマン』や『機動警察パトレイバー(テレビアニメ版)』『マシン英雄伝ワタル』等の新作アニメも放映されていました。
90年代オタク文化を語る上で欠かせないレンタルビデオ店
現在は急速にすたれつつありますが、VHSやDVD、CD等をお店からレンタルして自宅で視聴する文化がありました。
サブスクリプション(定額制)のVOD(ビデオ・オンデマンド)が定着しつつある現在からは想像もできないような話です。
なぜレンタルなのか?
当時の映画等のビデオパッケージが1本15.000円~20.000円で売られていたことが原因です。
1話30分のOVAなどは定価5000円前後。
現在のように安売り店や中古市場がほとんどなかったので、お金のない学生等はレンタルビデオを積極的に利用しました。
ちなみに90年代当時のレンタルビデオは新作1泊2日で300円~400円前後。準新作は3泊4日。旧作は7泊8日。
現在のレンタルDVDだと旧作で7泊8日で80円という価格もあるので、いかにレンタル業の値崩れが極端に進んだのか参考になるかと。
90年代アニメランキング
このランキングはあくまでも主観的なものです。
興行収入や知名度で選ぶと、けっこう似たような作品が並ぶのでそれほど重視していません。
いちばん重視したのは「90年代らしさ」「実験性」でしょうか。
この年代特有の空気や問題意識をパッケージした作品を最優先に選んでいます。
なので、絵柄など現在の主流のアニメ絵とは程遠かったりするかもしれません。
当時の最高峰だったセルアニメーションの技術などは、CGが一般化した現在ではオーパーツを見るような楽しみがあるかも知れません。
拙作『時空オカルト研究会』のメンバーのコメントも追記してあります。
16位 ふしぎの海のナディア(90年)
ガイナックス制作。NHKで放映されました。
総監督は庵野 秀明(あんの ひであき)氏。キャラクターデザインは貞本 義行(さだもと よしゆき)氏という、後にエヴァンゲリオンを作るキーパーソンです。
『ふしぎの海のナディア』制作時の話は「3章 会社としてのガイナックス、歴史概観」の一節に書かれていてとても興味深かったです。
15位:少女革命ウテナ(97年)
1997年4 月放送開始。全39話。
『美少女戦士セーラームーン』のメインスタッフだった幾原 邦彦(いくはら くにひこ)監督による異色作。
宝塚や前衛アングラ演劇などのモチーフやけれん味たっぷりの演出などアヴァンギャルドな魅力のアニメです。
クセのある作品のため、見る人によって賛否両論の内容で人を選ぶ作品となっております。
14位:Serial experiments lain シリアルエクスペリメンツレイン(98年)
1998年。全13話
書籍やイラストの雑誌連載にアニメ、ゲームなどのマルチメディア展開を同時進行する当時としては珍しい構成でした。
安倍 吉俊(あべ よしとし)氏のキャラクターデザインも魅力。
『存在は認識=意識の接続によって定義され、人はみな繋がれている。記憶はただの記録にすぎない』
コミュニケーション端末が普及し、Real_World(現実)とWired(ワイヤード)が普通に扱われる世界。
14才の中学生、岩倉玲音(レイン)の体験する不思議な出来事が、玲音の視点で展開していく。
技術の発展に仮想現実と現実世界があいまいになるという世界観ですが、初代iMacなど実在のコンピュータや専門用語も出てきます。
実験的カルトアニメとして現在でも一部に熱狂的なファンを持っている作品です。
12位 電脳都市OEDO808(90年)
90年のOVA。全3話。
海外ではサイバーパンクアニメの代表的な作品の一つとして知られています。
川尻 善昭(かわじり よしあき)監督作品は、非常にクセのある劇画調の画風で、エグミのある演出が持ち味ではないでしょうか。
言葉はよくないですが、悪趣味ギリギリともいうようなバイオレンス描写も盛り込まれています。
『妖獣都市』(87年)『獣兵衛忍風帳』(93年)の評価も高いのですが、いかんせん現代のアニメの画風とは相反する画面なので、万人には勧め難いアニメ作家です。
なのにどうして『電脳都市OEDO808』を10位に挙げたかといえば、この陰鬱なサイバーパンク感が90年代前半「エヴァ以前」の最大の特徴だと感じたからです。
12位 マクロスプラス MOVIE EDITION(95年)
『マクロスプラス』は94年に発売されたOVAで全4話。
その劇場版として新規カットを追加したものが『マクロスプラスMOVIE EDITION』です。
少しややこしいですが、劇場版を選んだ理由としては、何といっても伝説の5秒です。
OVA版の作画クオリティは凄いのですが…。
アニメーター板野一郎氏の描くアクロバティックな空中戦は通称「板野サーカス」と呼ばれ、以前からマニアをうならせてきました。
その真骨頂が本作品のクライマックスの戦闘シーンに現れています。5秒間に116枚という驚異的な作画枚数で描かれました。
普通のアニメがおおよそ1秒間に8枚なので、5秒でおおよそ40枚。
肉眼で捉えるのが難しいほどのスピード感で、飛び回るミサイルの緻密な動き、それを回避する戦闘機の動作などを描いています。
一応マクロスシリーズについて説明しておきましょう。
82年のテレビアニメ『超時空要塞マクロス』および劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』の物語設定から30年後の世界が舞台。
同時期にテレビアニメ『マクロス7』(94-95年)が放映されました。
11位 機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY(90年)
90年。ガンダムシリーズのOVAです。全13話。
ウラキ少尉で学ぶ、新入社員の1年 pic.twitter.com/78cYUTJxkg
— ぴーぴー🍟 (@pp028_KarenP) April 2, 2018
10位 青の6号(98年)
1963年に『週刊少年サンデー』に連載された小澤さとる氏のマンガ作品を前田 真宏(まえだ まひろ)監督がOVA化しました。
キャラクターデザインは村田 蓮爾(むらた れんじ)氏。独特の雰囲気と空気感が~00年代にかけて圧倒的な影響力を誇りました。
3DCGを使っていることで、海中の潜水艦や怪物のスケール感などが臨場感たっぷりに描かれています。
9位 老人Z(91年)
91年公開のアニメ映画。
80年代を代表するマンガ家である江口寿史氏と大友克洋氏がコンビを組んだ話題作です。
原作・脚本・メカニックデザインを担当したのは大友氏。バブル時代に高齢化社会や介護ロボットなどをテーマにした着眼点はさすがでした。
当時カワイイ女の子を描かせたら日本屈指の江口氏によるヒロインのキャラデザインもポップでキュート。
8位 GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊(95年)
原作は志郎正宗のマンガ『攻殻機動隊』を押井守監督が劇場映画化したものです。
全米セルビデオチャート1位に輝き『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟(※当時。現在共に性転換し、ウォシャウスキー姉妹となっている)にも影響を与えたことが有名です。
全世界でのビデオ・DVDの売上は130万本(02年のデータ)を記録しました。
7位 カウボーイビバップ(98年)
制作はサンライズ。
当初はテレビ東京で放映され、後にWOWOWの無料放送枠で放映されました。
宇宙を舞台にした賞金稼ぎ達の活躍を描いたハードボイルドSF作品です。
『ルパン三世』や『探偵物語』『傷だらけの天使』などを彷彿とさせるようなシリアスな展開からコメディあり、ハードボイルドありの幅広い作風です。
登場人物の年齢層は高めで、1話完結の形式が取られているのもこの手のアニメでは珍しいところです。
音楽は菅野よう子氏。ジャズやブルースやロックを基調としたクールな楽曲を収めたサントラは日本ゴールデンディスク大賞を受賞しています。
2017年にはアメリカで実写TVシリーズ化することが発表されましたが、続報が待たれます。
大人とは カッコいい大人の定義 年代別 漫画・アニメに学ぶ魅力的なキャラ
6位 ロミオの青い空(95年)
95~96年。フジテレビ系列。全33話。
日本アニメーション制作の『世界名作劇場』の第21作目です。
主に金銭的な事情から親元を離れてイタリアのミラノで煙突掃除夫として働く少年たちの物語。
不遇な環境にありながら前向きに生きる主人公ロミオが生き生きと描かれています。
『ロミオの青い空』はとてもファンに愛されている作品です。
放送終了25年を経た現在でもファンによる交流会などのイベントが行われています。
5位 るろうに剣心−追憶編−(99年)
『週刊少年ジャンプ』で連載していた同名漫画のOVAです。
原作のマンガや、テレビアニメとは別モノと言っても良いほど重くシリアスな大人向けの内容となっています。
「人誅編」で剣心が語った回想シーンを元に構成されており、幕末を舞台にした「人斬り抜刀斎」時代の剣心を描いた作品です。
ひょっとしたら「るろ剣」を知らない人の方が楽しめる作品かも知れません。
なぜか海外では『SamuraiX』というタイトルですが評判も良く、海外アニメ批評家が選んだ歴代トップ50で第30位という高評価です。
静かなシーンと激しい殺陣の抑揚の効いた演出も見どころです。主人公とヒロインの心情が変化していく様子が丁寧に描かれていて、音楽もシナリオも素晴らしい。
4位 新世紀エヴァンゲリオン(95年)
全26話※のテレビアニメ。テレビ東京系列で放映されました。
90年代を代表するアニメを1本と言われたら、この作品を挙げることに異論はないでしょう。
当初は視聴率が振るわなかったのですが、ビデオ録画していたコア層には「すごいアニメだ」「パロディの元ネタ探し」みたいな感じで話題でした。
深夜枠での再放送を起点に社会現象にもなり、その後の深夜アニメの先駆けになりました。
97年には最終回となる第25話と26話をリメイクした劇場版『Air/まごころを、君に』が公開されました。
00年代~10年代にも制作されている新劇場版等も含めると、この作品が与えた社会的な影響力はすさまじいものがあります。
すでに考察や関連書籍なども何十冊とありますし、各企業とのコラボCMや、パチンコなどにもなっているので知名度は日本中に知れ渡っています。
一方で知名度の割には見てない人は全く見ておらず、情報が断片的にしか広まっていない点は興味深いところです
エヴァの社会的影響力やコンテンツとしての凄さはいずれ別記事にまとめるつもりです。
3位 On Your Mark オン・ユア・マーク(95年)
CHAGE and ASKAの楽曲『On Your Mark』のプロモーションフィルムとして、スタジオジブリが制作しました。
95年『耳をすませば』と同時上映で公開されました。
監督は宮崎駿氏。「歌詞を曲解して作った」「暗号のような物をいっぱい入れてある」というように人によって異なる解釈ができる映像作品です。
90年代アニメという事で、当然宮崎駿監督作品から最低1本は選ぼうと思い、個人的に大好きな『紅の豚』と悩んだ末にこちらにしました。
選出の理由は、メカデザインやサイバーパンクといったジブリらしくないモチーフが使われている点です。
「もし宮崎駿監督が鈴木敏夫プロデューサーと出会わずに、90年代OVA時代に映像作品を作っていたら」
みたいなIFの世界が垣間見られるのは私だけでしょうか。
とにかく濃密な6分40秒ですので未見の人はぜひ!
2位 機動警察パトレイバー2 The Movie(93年)
1作目の劇場版パトレイバー(89年)は押井作品とロボットアニメという取り合わせながら絶妙にバランスの取れたエンターテイメントでした。
しかしこちらは打って変わって、自衛官によるクーデターや、「平和ボケ」の日本に対するメッセージは押井守監督の思想全開です。
東京でのテロ事件を描いた本作品は、後にオウム事件が起こった時に(マニアの間で)よく引き合いに出されてもいました。
日常の延長線上、すぐ隣にある戦争?
そして敗戦から復興していった都市としての東京も興味深く描かれています。
1位 MEMORIES(95年)
アニメ映画版『AKIRA』(87年)で、アニメ界にもその名を轟かせた大友克洋氏が製作総指揮を務めたオムニバス映画。
森本晃司監督『彼女の想いで』岡村天斎監督『最臭兵器』大友克洋監督『大砲の街』の3話を収めています。
各作品には特に関連性はなく、作画テイストもそれぞれ独自という、日本アニメ映画史上にも他に例がないような構成※です。
※東映まんが祭りなどの同時上映は除く。
どれもアニメーションでしかできない表現を追求している点に唸らされました。
個人的にイチオシなのが『大砲の街』
ストーリーはほぼ無いに等しく、蒸気が覆う大砲の街で生きる少年の一日を描いているアニメーションです。
特筆すべきは、全編がワンカット※で構成されているという極めて特異な作品です。
ワンカット撮影とはカメラの長回しによる撮影方法。映画だと『1917 命をかけた伝令』 (19)などが知られています。
アニメーションなので厳密にはワンカットではないのですが、信じられないような労力をかけています。
現在の視点で考えると、よく企画が通ったなと思えるほどの野心作です。
「信者でないと楽しめない」
「古くさい」
といった意見があるようですが、現在主流ではない世界を楽しむのも楽しみ方の一つではないでしょうか。
まとめ
現在の商業的にも見た目にも華やかなアニメとは違う、我ながらしんどいラインナップになってしまいました。
劇場版やOVAに注目して90年代という時代のアニメを振り返ってみるとき、現在(2020年~)の様相とは相当異なっていることに改めて驚かされるばかりです。
90年代アニメに関してはこの記事を書くために改めて見返してみましたが、かなり硬派というか、とっつきにくい作品が多いです。
「そりゃあ需要を考えたら可愛い女の子があふれかえる作品ばかりになるよな」
率直に言って、現在のアニメの華やかさが恋しくなりました。
そんな2010年代のテレビアニメの個人的なランキングについては以下の記事にまとめました。
90年代は市場としてはまだまだ混沌とした状況から、野心作や実験作が随所に見られる時代だったように思えます。
そのようなギトギトした時代のエネルギーを感じ取れるようなラインナップを心がけました。
この「90年代らしさ」は続く06年の『涼宮ハルヒの憂鬱』あたりで大転換されるのですが、それは00年代のアニメ・ベストで詳しく解説します。