オウム真理教が起こした一連のテロ事件から20年以上が経過しました。
95年3月の地下鉄サリン事件は当時、日本中を震撼させました。
世界でもまれに見る化学兵器を利用した大都市への無差別テロ攻撃。
長きに渡る裁判を経て、数々の事件に関わったほとんどの被告たちに対して法の裁きが下されました。
しかし現在もサリン事件の後遺症に苦しむ被害者たちが存在することを忘れてはいけないでしょう。
そんな平成時代の一大事件に対して、当記事ではサブカルチャーの視点から焦点を当てて考察します。
オウム事件の時代背景 80年代~90年代~オカルト・アニメ・サブカルの視点で語る終末感覚。
オウム真理教(現アレフ)は89年に設立した新興宗教団体です。
麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚を教祖として、ヒンドゥー教や諸派大乗仏教などを背景とする教義を説いていました。
主神はヒンドゥー教の最高神の一柱で破壊神としての側面を持つシヴァ神。
松本元死刑囚は解脱して超能力を身に付けたとうそぶき、「空中浮揚」する写真なども公開していました。
信者の中核は高学歴の若者たちで、神秘体験に憧れるような大学生などを積極的に勧誘していきました。
ヨガとかカレーとかのサークルを隠れ蓑にしてたんだよな
現在でもアレフはSNS等を利用して勧誘しているとか
話を80年代~90年代に戻します。
教祖の「麻原正晃」もオカルト雑誌に寄稿したりテレビのバラエティ番組などにも積極的に出演してPRを行うなどメディアを利用した宣伝活動を行っていました。
テレビ的には「ちょっと変わった教祖のおじさん」というキャラクターで扱っていたような印象だ
ただ、信者への暴力や脱退のトラブル等、設立当初から不穏なうわさが絶えなかったことも確かです。
サンデー毎日などでは89年に「オウム真理教の狂気」と題する特集が組まれ、批判されていたオウム真理教。
坂本弁護士一家の事件が起きたのも89年11月。
その一方で「麻原正晃」はダライ・ラマ14世をはじめとする高名な宗教指導者と対談し、教団の宣伝活動に大いに利用しました。
また自分に批判的な僧侶等とも対談したり、時にはケンカ腰でマスコミ批判をするなど何かとメディアを賑わせていたようです。
オウム真理教自らもアニメを制作したり、オウム出版を立ち上げ、雑誌『ヴァジュラヤーナ・サッチャ』を刊行するなどしていました。
90年2月に行われた衆議院選挙に教祖と主だった幹部24名が立候補しましたが、全員落選しました。
このようにオウムとメディア、オカルトとサブカルチャーは密接に絡み合っています。
この時代背景には当時の時代の空気があります。
バブル時代に、なぜこのような終末思想や救済思想がサブカル界隈でもてはやされたのか、その理由を考察していきます。
オウム真理教の事件をテレビはどう報道したか
80年代『月刊ムー』に広告を載せたり、記事を書いてた人が、まさかそんな大事件を起こすなんて
91年には『TVタックル』でビートたけしとも対談してる
当時は新興宗教ブームでした。
テレビ局としては視聴率競争のためにちょっと胡散くさい教祖「麻原正晃」を出演させたのでしょう。
当時はこれほどの事件を起こす集団とは思われていなかったのでしょう。
教団側も信者獲得のPRに積極的にバラエティ番組にも出演します。
とんねるずの番組「生ダラ」では「麻原彰晃の青春人生相談」などのコーナーも設けられていたようです。
一連の事件後は、連日これでもかとばかりに特番が組まれました。
また「麻原氏逮捕のXデー」などという文字が週刊誌の見出しに踊ります。
♪ショーコ―♪ショーコ―って歌がクラスで流行ったな
事件直後のテレビ放送はオウム事件一色で、どのチャンネルも大々的な特番を組んでた
91年の湾岸戦争の時には「ムーミン」やってたあのテレ東でも特番をやっていたな
オウム真理教の幹部が生出演してジャーナリストたちに反論していたり、異様な雰囲気の生特番が各テレビ局で放送されていました。
そして教団東京総本部前に戻る村井秀夫幹部が生放送の時間中に刃物で刺されるというショッキングな事件が起きました。
現場には200名を越える報道陣もいて、騒然となります。
各テレビ局の画面が一斉に事件現場を映し出し、ニュース速報が駆け巡りました。
♦サブカルメディアの影響~80年代アニメの特色
彼らを凶悪事件に駆り立てた動機は、裁判の記録等に記載されていると思いますし、現実に被害に遭われた方もいる事件ですので、慎重に語る必要があると思います。
が、当時の空気を知るオカルトマニアとして、オウム真理教のような反社会的な組織に、高学歴の人たちも含めて多くの若者が入信したり、興味を持ったのは何故でしょう。
小夜子さん、80年代のサブカルチャー周辺ってどんな感じでした?
80年代のサブカルチャーって全体的に終末感覚があったわ
当時はオカルト雑誌が花盛りでした。
「月刊ムー」「月刊マヤ」「トワイライトゾーン」「ワンダーライフ」等が挙げられます。
バブル真っ盛りの時代に「ユダヤの陰謀の阻止!」だとか「世界を救済する○○」や「覚醒した超能力者が世界を救う」などの過激な見出しが紙面を踊っていました。
また、臨死体験などもブームになりました。
カラフルで華やかな画面の裏で、変な警告があったのよ
このままでは人類は滅びる、物質文明、おカネ、消費社会に対して違和感を持つ雰囲気が、80年代の漫画やアニメに数多くあるの
『風の谷のナウシカ』『伝説巨人イデオン』は見たことある?
宮崎駿監督、富野由悠季監督という日本のアニメ界における巨星が、もっとも精力的に作品を発表していた時期に、作風のまったく異なる2人が、文明の崩壊・再生をテーマにしてるのは興味深く思います。
まだ冷戦やってたろ。核戦争の脅威が現実のものだったしな
チェルノブイリ原発事故は1986年4月だったのよね。
11年の東日本大震災後とは似てるようで違うんですね
バブルについていけない内向的な若者の一部は、心のどこかで70年代末のオカルトブーム・ノストラダムスの大予言ブームを引き継いでいて
♦80年代~90年代のアニメ・漫画で、くり返された滅びのイメージ
好景気のはずなのに、なぜか荒野が舞台の作品が多いのも、核戦争とか放射能への恐怖が関係してるかも
『北斗の拳』もそうだな。終末っていうか世紀末だけど
作画的に荒野を描くのは楽っていうのもあるでしょうけど
終末感覚は90年代の『エヴァ』でピークを迎えるけど、とにかく世界・地球が滅びまくってたな
『失われた10年』時代ならばともかく、バブル真っ只中に「人類に警鐘を促す」って…
これは作り手の気持ちとも密接に関わることなのでしょう。
当時の巨匠たちが持っていた文明に対する危機感と、相反するような浮かれた世相。
この乖離がそのような表現をさせたのかもしれません。
エコノミックアニマルとか言われてたしな。あんま『好景気だ胸を張ろう!』…的な報道はなかったぜ
アニメや漫画のストーリーでも、繁栄にうつつをぬかす地球人や、自然破壊をする企業をことさら悪く描いていたわよ
バブルの好景気感は『機動警察パトレイバー the Movie』ではバッチリ描かれていた
確かに昭和に取り残された古い街並みと対比させることで、後ろめたいような繁栄を印象付けていた
漫画版のパトレイバーでは、警察官が地道に任務をこなし、80年代のお祭り時代を象徴するような悪ふざけの天才(内海課長)に対峙します。
ある意味でオウム事件以降の97年の『踊る大捜査線』を先取りする内容だという評価がなされています。
少女漫画だと『那由他』と『ぼくの地球を守って』とか
もちろん恋愛はメインなんだけど、前世ブームや、超能力、オカルト要素がふんだんに織り込まれた作品が人気だった
前世についての記事は以下にまとめました。
人はなぜ前世を信じるのか? 多角的な視点で輪廻転生を徹底考察
ドラクエ的な中世風ファンタジーは80年代後半に確立した
70年代は空前のオカルトブームで、まだその影響下は続いてたわ
で、ユリ・ゲラーが来日して超能力でスプーンを曲げたり、全国で超能力を持つ少年少女が発見されてたの
80年代のテレビではひょうきん族が流行って、おニャン子クラブやとんねるず、とにかく派手でにぎやかな印象がある一方でな
♦オウムに入信した信者の多くが、70年代を子供として過ごし、80年代に社会に出て、違和感を感じていた?
現実の事件に漫画やアニメの影響を持ち出すのは短絡的な気もしますが…
そんな当時のサブカルの空気が、一定数の若者をオウム真理教に向かわせた遠因になったとも考えられます。
このオウムとサブカルの親和性については当時の内向的な若者文化と重ね合わせると理解されやすいかと思います。
80年代後半~くらいで、台風の目ともいえるのがパンクロックバンド『THE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)』だったように思う
ブルーハーツと言えば、社会現象にもなったバンドですので、ヤンキーを含め様々な人が聴いていたでしょう。
しかしコアなファン層は内向的で、不安を抱える若者たちでした。
キラキラした芸能界の中で、すごく異彩を放っていたわ。正直、ちょっとこわい感じ
歌詞の文学性、メッセージ性の影響力はよく語られるわよね
直接は、ないだろう。後のV系の方がよっぽど終末的だ
物質的な豊かさに、違和感を持っていた若者がブルーハーツに共感した理由
ブルーハーツは圧倒的に当時の若者の心をつかみました。
そしてクリエイターの心も虜にしています。
漫画『ろくでなしブルース』や『迷走王ボーダー』でもたびたび引用され、劇作家の鴻上尚史氏や、作家の吉本ばなな氏も、熱狂的に支持していました。
わたしは『夕焼けニャンニャン』見るでしょう『ねるとん紅鯨団』も見るでしょう。ブルーハーツはテレビにはあまり出ないけど、たまに音楽番組で見た時ビックリしたもん
ガリガリに痩せた甲本ヒロトの舌を出しながら体を痙攣させて歌う仕草は、圧巻
NHKに出演した時は「苦情」も含めて問い合わせの電話が鳴りやまなかったという伝説もあるようですね
00年代の匿名掲示板にも、『ブルーハーツは宗教か?』なんてのがあったけど
甲本ヒロト氏と真島昌利氏のメロディの力強さは言うまでもないでしょう。
少し乱暴な言い方かも知れませんが、ブルーハーツ時代の楽曲は歌詞への共感もさることながら『間違った世の中からの救い』とかを求めてハマった人もいたのではないでしょうか。
ブルーハーツと宗教については当事者たちの事情も含めて書きますと当記事は大変に生々しい内容になってしまいます。
なので、ここでは触れませんけれども、バブルに違和感を持っていた層の受け皿としての役割をロックや新興宗教やサブカルチャーが担っていたことは確かなのかもしれません。
若者たちをカルトに駆り立たせた原動力とは
こういった時代背景から考えてみると、内向的な人はバブル経済とは違う『ここではないどこか』を目指していたんですね
実際はフツーに生きてるんだけどネ、何だか時々このままでいいのかって不安になる
そういう『心のスキマ』を、笑うせえるすまんではなくオカルトやカルト宗教が埋めたんだ
テレビやファッションが、ひたすら華やかで軽薄な一方、ついていけない子はアンダーグラウンドに救いを求めた
でも、オウム事件以降、エヴァを境に、オカルトの波は一気に引いていき、日常の中に落とし込まれていった。『ハルヒ』なんかもエヴァ以前だったら全然ちがう表現になっていたでしょうね
リアルタイムを知る者として、オウム事件以降、テレビで夏の風物詩だった心霊モノとかオカルト番組が急激に少なくなっていたな
廃れたというか、オウム事件をキッカケに、くさいものに無理やりふたをしてる感じがあったな。月刊ムーでも、前世モノ、特に超能力モノとか激減したような気がする
その代わりに占いが流行ったのよね。動物占いとか、〇〇占い
あたしは小学生だったけど、自分の知る限り少なくともテレビで大騒ぎになったりはしなかったわね。コンピュータの2000年問題っていうのがあったけど、別の話だね。
2018年だと、さすがにノストラダムスはオカルトに興味がある人でもあまり話題にならないですね
80年代のわたしたちが想像する99年は来ないってことか…
オウム事件をキッカケに、オカルトに対する空気が変わったからな
ノストラダムス大予言の影響
オウム事件から20年で、新興宗教、カルトに関する認識は変わったのか?
どうでしょう。オウム真理教から発生した宗教団体は現在も活動を続けていますし、犯罪まで行かなくても、反社会的な宗教組織にハマる若者はこの先も一定数いるでしょうね
あたしたちだって、人との出会いのタイミングなんかで、そういう宗教にハマる可能性もある(苦笑)
まぁ、おれも含めて、オカルトに興味を持つ奴なんて繊細で心が弱い
この社会に適応できて、何の疑問も持たない人の心には、オカルトの闇は忍び寄らない
幸い、わたしはみんなと仲良くやっているけど、ふと思う時があるわ『この世界は間違っているんじゃないか』って。それっていけない考えなのかな?
日本には思想・良心の自由、信教の自由がありますから、人の精神の自由について保証する自由権があります。どんな宗教でも、尊重しないといけないのですが、一方で法治国家ですからね。犯罪に関しては断固たる措置を取らなければなりません
繊細な心を持つ人の、精神のよりどころとして、アニメや音楽などの表現作品がある一方、実際に犯罪を犯した人に対して、マスメディアはアニメや漫画の影響とか言うけど、あれはこの先も続いているの?
オウムに関してはなかったかな。オウムは教団のPRアニメは作っていたけど、オウム事件に関して、おれの知る限り『漫画やアニメの影響~という報道』はなかったかな
2008年では、未成年者の通り魔とか無差別殺人があると、ゲームやアニメの影響~みたいなことを言うコメンテーターは、けっこういる
2018年では深夜アニメとかが1クールごとに大量につくられて、駅の構内や観光地にもアニメ絵のポスター、テレビCMにもスマホゲームの美少女キャラで溢れかえりますけど、その手の事件が起きたら叩かれますね。SNSとかでも流れます
アニメ・ゲームを叩きたがる人たちには理解できないのだろうね。あたしたちの鬱屈した思いは。
おたく=犯罪者予備軍みたいなレッテルは、さすがに80年代よりは、是正されつつありますが。
オカルトマニアには二種類いる。オカルトと知りつつ楽しんでいる層と、信じてる層。
人間の心は重層的なもので、「所詮オカルト」と知りつつ楽しんでるけれども、実はこの世のルールとは別の真理を求めてる層…というように、意外とややこしいのかもしれません。
そして「真理を求める」という気持ちが、さまざまな要因が絡み合い、ときとして人は道を踏み外す。
これから先も、一定数の『ここではないところにある真理』を求める人たちは存在し続けるんでしょうね
それを言ってる段階で、知里さんはオカルトにはまる側の人間なわけで。
しょうがねえんだよな。おれたちのような人間は、心のもやもやを受け入れつつ、日常を生きていかないといけないわけで
僕たちがカルト宗教にハマらない、道を踏み外さないために必要な事
実は、あまり表立って報道されないけれど、オウムに限らず、日本ではカルト宗教にハマった人が社会復帰しようとして失敗したり、カルトから抜け出すつもりが別のカルトにハマってしまった例が多くあるそうです
小夜、アンタは怪しい宗教やダメ男にドはまりしたら抜けられないタイプな感じがするから、人一倍気を付けるのよ
でも、僕らのようなオカルト好きの人間が、カルト宗教のようなものにハマったとして、犯罪に手を染めさえしないなら、個人の自由ではないか、という意見もあります
やはりオウム真理教事件をリアルタイムで経験したから、ですか?
カルト宗教にハマった本人は幸せかもしれないが、あれはカネがかかるし、家族や友人に入信を勧めたりしたら、人間関係がぶっ壊れる。オカルト研究会としては、おススメしない生き方だ。違うか?
わたしたちはオカルト愛好家として、超常現象や超能力、心霊現象などの不思議なことを研究しているけど、一歩間違うとカルト宗教にハマってしまう可能性もあるから、同じ仲間としては、とても心配なの
オカルトへの興味からオウム真理教に入信した人も、きっといたでしょうしね
家族や友人がカルト宗教にハマりそうな場合、どう説得したらいいかしら?
周りがいくら言っても、本人はカルトだと認めない『真理の教えだ!』って突っぱねる場合も多いしね
そんなのは簡単だ。カルトにハマる奴は、本気でハマるんだから、こっちはそれ以上の本気で連れ戻す。家族として友達として、本気でそいつの魂を連れ戻すんだ。じゃなかったら無理だ
では、そもそもカルトにハマらないためにはどうすればいいのでしょう?
たぶんおれたちは、道に迷ったとき、不安になったとき、自分で決めるより誰かに決めてもらったほうが楽なんだろう。だけどな、心の手綱は自分で握るべきだ。自分の人生を生きているわけだから
アンタ正義感の強いやつだと思ってたけど、ここまで熱血漢だとは思わなかったわ。
ああ。あの千葉県知事になった人、元は青春ドラマの俳優なんですね。