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オカルトブームのイメージイラスト

オカルト研究

オカルトブームを振り返る 70年代~90年代編

今回取り上げるテーマはオカルトです。

本記事内で扱うオカルトとは、表層的な意味で使われる似非科学、ポップカルチャーのジャンル、スピリチュアル、心霊現象をさします。

オカルトが20世紀に与えた影響

ものものしい神秘学(オカルティズム)という概念が、オカルトと軽く称されて20世紀のポップカルチャーに多大な影響を及ぼしながら、あくまでも大衆文化として「科学では解明できないふしぎな現象」あるいは浅薄な流行として消費される行程を、ざっくりと語っていきたいと思います。

神秘学(オカルティズム)とは?

19世紀の神秘学思想家エリファス・レヴィ(1810-1875)

エリファス・レヴィのイラスト

エリファス・レヴィ

占星術、魔術、錬金術など、キリスト教的な価値観において正統ではないとされた西洋神秘主義を復権させた人物。

神秘学とはレヴィによって提唱された概念です。彼は独自の研究と著述活動が一部に評価され、近代ヨーロッパにおける魔術復興の象徴的な存在となっていきました。

ロマン派詩人でもあったレヴィの思想は彼の母国フランスにおいて象徴派詩人の先駆けとなり、ボードレールやリラダンを始めとする象徴派や文学者たちに多大な影響を与えます。

マグレガー・メイザース(1854-1918)と「黄金の夜明け団」

マグレガー・メイザーズのイラスト

マグレガー・メイザーズ

一方、レヴィの神秘学を実践していったのが、英国のオカルティスト、マグレガー・メイザースでした。彼は近代魔術結社の祖と言われる「黄金の夜明け団」を創設したり、魔術書「ソロモンの大いなる鍵」を編纂し、魔術の復興を実践しました。

黄金の夜明け団のシンボル

「二十世紀最大の魔術師」アレイスター・クロウリー(1875-1947)の登場

アレイスター・クロウリーのイラスト

アレイスター・クロウリー

「黄金の夜明け団」からは後に「二十世紀最大の魔術師」「世界で最も邪悪な男」とも称された魔術師アレイスター・クロウリーが頭角を現し、反社会的な言動や、規範意識を逸脱した儀式が原因で祖国イングランドから国外退去処分をされるなど、物議をかもしました。

そんな「魔術師」クロウリーですが、ロックミュージックやポップカルチャーに与えた影響力ははかり知れません。

ロックスターは魔術師がお好き?

例えば、レッドツェッペリンのギタリスト、ジミー・ペイジはクロウリーのファンを公言しており、アルバム『Ⅲ』のアナログ番には、クロウリーのモットー「Do What Thou Wilt」(己のやりたいことをなせ)が刻まれています。

デヴィッド・ボウイもクロウリーの大ファンで、70年代の彼はオカルトに熱中し、クロウリーの魔術、象徴、超人哲学に大きな影響を受けていました。

さらにはビートルズの67年のアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のジャケットにも登場しています。

このほかにもドアーズ、ブラックサバス、ブロンディ、ラモーンズのトミー・ラモーン等、錚々たるロックスターに敬意を表される存在でした。

カウンターカルチャーとしてのオカルト

60年代~70年代にかけては、米ソの冷戦が、61年のキューバ危機を経て核戦争への恐怖が差し迫り、泥沼化するベトナム戦争による大人たちへの失望が広まっていました。

若者の一部は共産主義による世界同時革命を夢見て暴力的な学生運動を繰り広げ、ニューエイジカウンターカルチャーヒッピームーブメントが先進国を席巻し、既成の文化に取って代わるほどの勢いで急速に拡大していった時期です。

このような不穏な時代背景を受けて、オカルトブームは世界的な潮流となりました。

オカルトが世界的にブームだった70年代。

昭和30年代~40年代。高度経済成長期だった日本ですが、変わりゆく街並みや排気ガス、交通事故死者数は年間1万人を超え、交通戦争と言われたほどでした。

多くの人の生活が豊かになっていく半面、豊かな心が置き去りにされたように感じる人々が多かったのでしょうか? そんな人々の心のスキマに入り込むように現れたのがオカルトでした。

70年代のオカルトについて

UFO、,ネッシー、ツチノコ、超能力&スプーン曲げ、ノストラダムスの大予言、心霊写真、日本沈没、超古代文明(ムー大陸、アトランティス含む)、コックリさん、エクソシスト(悪魔祓い)等、大方のオカルトジャンルはほとんど70年代に出尽くしています。

これらの多くが、“UFOを流行らせた男”、矢追純一氏が『木曜スペシャル』で取り上げたことで広く一般に広まった現象で、70年代の日本は空前のオカルトブームが巻き起こりました。

特筆すべき1973年は戦後日本『オカルト元年』?

ノストラダムスのイラスト

 

小松左京氏の「日本沈没」、五島勉氏の「ノストラダムスの大予言」がベストセラーとなり、心霊テレビ番組「あなたの知らない世界」も、同年夏から始まっています。

73年という年は、戦後日本における『オカルト元年』と言えるような1年でした。

 

テレビおよびキッズカルチャー全盛期とも重なり、連日連夜オカルト的な題材がお茶の間にあふれた狂乱のオカルトブームですが、すでに70年代にはピークを迎えていました。

 

当時のオカルトブームで頭角を現した『超能力少年・少女』たちの中の大多数が、インチキが暴かれたりして消えていく中でも、オカルト的な流行は一向にすたれず、78年に発生した『口裂け女』などの都市伝説が社会現象になりました。

オカ研によるオカルト座談会

八十島 小夜子
わたしは70年生まれだから、小学校低学年の頃からオカルトブームの真っただ中にいたのよね
零乃瀬 知里
どんなのが流行ってたの?
八十島 小夜子
スプーン曲げもユリ・ゲラーも70年代のブームだけど、80年代でも給食の時間にスプーンを曲げる男の子はいた
九重 直行
スプーン曲げといえばMrマリックだな! 90年代初頭にすごく流行った
十念 絵馬
超能力者風の演出と、『超魔術』という呼び方が誤解され、インチキだと批判されたそうですね
九重 直行
97年頃にはマジシャン宣言するんだけどな
八十島 小夜子
ユリ・ゲラーはあくまでも『超能力者』を名乗っていたのよ
零乃瀬 知里
怖い系では?
八十島 小夜子
怖かったのはコックリさん。本当に集団ヒステリーになるようなケースもあって、学校で禁止令が出たわ
九重 直行
90年代になる頃には、コックリさんは急速にすたれた気がするけど、何となくヤバい雰囲気は残ってた
零乃瀬 知里
00年代になると、ネットでコックリさんのやり方とかを説明するサイトが出てきてたわ
10年代になると『繰繰れ! コックリさん』(ぐぐれ コックリさん)というギャグ漫画が発表されますけど
ほかに何かオカルトブームで体験したことはありますか?
八十島 小夜子
『ツチノコ』は探したわよね
おお!
ツチノコ
ツチノコの想像図

古くから日本に生息するのでは伝えられているツチノコは、UMA(未確認動物)の一種です。

その姿は体が短く、ぷっくりと膨れ上がったヘビというのが一般的なイメージではないでしょうか。

現在に至るまで捕縛例はありませんが、「ツチノコ生け捕り」には現在でも賞金がかけられています。

捕まえたら賞金1億円 探すぞ! つちのこ

新潟県糸魚川市 つちのこ探検隊HPより 引用元URL http://www.nunagawa.ne.jp/tsuchinoko/seisoku.htm

賞金狙いですか?
八十島 小夜子
まさか! 猛毒を持っていると言われてたし、よほどワンパクでもない限り、本気で探す小学生はいないわ。遊びみたいなものよ
零乃瀬 知里
遊びって…?
八十島 小夜子
川原とかで蛇の抜け殻が落ちてるじゃない? それを男子が学校に持ってきて『ツチノコのミイラだ』って言い張ったり、トカゲの尻尾を筆箱に入れて持ってきたり
零乃瀬 知里
うわあ
蛇の抜け殻を学校に持ってくるなんて、さすが昭和
九重 直行
ツチノコっていえば『ドラえもん』『ツチノコ見つけた』の巻に登場してたな。けっこうカワイイデザインでな
零乃瀬 知里
あたしの世代でツチノコといえば『ポケモン』かな
僕は『妖怪ウォッチ』『モンスターストライク』で知りました
九重 直行
ふーん。UMAも形を変えて後の世に伝わっているんだな
八十島 小夜子
UMAといえば、ネス湖のネッシーが有名だけれど、日本でも目撃情報が相次いだのよ。北海道の屈斜路湖ではクッシー、鹿児島の池田湖ではイッシ―
九重 直行
『ツチノコ』とか『UFO』とか覚えるつもりはなくても、どこかしらで耳に入り、いつの間にか知ってる言葉になったな
八十島 小夜子
昼休みや放課後の校庭で、誰からともなく『あっUFO!』って声を聞いたのは何度もあったし
こうして考えてみると、日本人はオカルト好きですよね

80年代のオカルトについて

 基本的には70年代の延長線上にあると言えるでしょう。

一般的には下火になったように見えるオカルトも、『口裂け女』などの散発的なブームによって息を吹き返し、80年代に至っても潜在的に人々の心に残り続けました。

 

 80年代はアニメファンのためのアニメが作られるようになったり、ファミコンブームによって日本のテレビゲーム市場が急速に拡大していく時代でした。

いわゆる『おたく』という言葉が使われだしたり、ポップカルチャーの転換点でもあります。

そのような時代にオカルトはどのような流行を見せたのでしょうか?

ポップカルチャーとオカルトの親和性

この時代からジャンプは黄金期に入るけど、少年ジャンプで本格的なオカルトマンガのヒット作はなかったな。諸星大二郎氏も青年誌の方に移ってしまったし
80年代のオカルトマンガといえば少女漫画の方が主流よね。『僕の地球を守って』はものすごい前世ブームを巻き起こしたり
80年代アニメは紫やピンクの髪の美少女が超能力を使う作品が多い印象があるけど、『僕の地球を守って』はアニメ化もされたのね
前世については人類にとっては永遠の謎だ

八十島 小夜子
やっぱり思春期の女の子はホラー・オカルトに興味があったわね。86年に朝日ソノラマから月刊誌『ハロウィーン』が創刊したの。ホラー・オカルト専門の漫画誌よ
九重 直行
伊藤潤二氏のホラー漫画『富江』が連載されていたよな

これは、70年代にポップカルチャーの洗礼を浴びて育った世代が制作者として創作の現場に飛び込んだことで、ファンによるファンのための市場が生まれたことも関係があると言えます。

90年代のオカルトについて~

89年11月に起きたベルリンの壁崩壊と90年の東西ドイツ統一。

長く続いた東西冷戦構造の終結と、91年にはソビエト連邦の崩壊とロシア激動の時代を迎えつつありました。

元号が昭和から平成に改まった89年~90年にかけては、手塚治虫、美空ひばりといった昭和を代表する人物が前後して亡くなり、多くの人が過ぎゆく昭和の時代を感じました。

当時の日本は空前のバブル時代、好景気に熱狂する一方、物質的な豊かさに違和感を持った若者たちの一部は精神的なものに憧れを抱き、オカルトや新興宗教などに心のよりどころを求めていった時代でもあります。

十念 絵馬
90年代のオカルトの流行と言えば?
九重 直行
90年代初頭はテレビの心霊番組が賑わっていた印象だ
八十島 小夜子
あら、80年代も心霊番組は多かったわよ
89年に公開された映画『丹波哲郎の大霊界 死んだらどうなる』はヒットし、90年代に続編も2本作られたそうですね
零乃瀬 知里
そうなんだ
九重 直行
90年にはテレビドラマ『世にも奇妙な物語』が放送されたな
十念 絵馬
80年代~90年代にかけて、オカルトカルチャーは狂瀾とも言うべき状態だったんですね
ノストラダムスの大予言はどうなの?
九重 直行
90年になると週刊マガジンで『MMR マガジンミステリー調査班』が始まっているんだけど、90年代でノストラダムスの予言を描いた作品といえばコレ、と言いたくなるほど目立ってた
零乃瀬 知里
『な…なんだってー!!』でおなじみのキバヤシ氏ね
九重 直行
だけど、95年のオウム事件で一変したな

『オウム事件』と『新世紀エヴァンゲリオン』

90年代のオカルト事情は、95年に起きた地下鉄サリン事件以前と以後で、一変しました。

この犯罪史上例を見ないオウム真理教による一連の犯罪が連日報道されたことで、オカルト的なエンターテイメントに対して自主規制が敷かれ、その手の番組やコンテンツが激減しました。

オウム事件とサブカルチャーの関連は以下の記事にまとめました。

オウム事件とメディア サブカルチャーの影響力を考察してみた

十念 絵馬
ちょうどその前後でTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』が社会現象にまでなっていたのも興味深い

零乃瀬 知里
『エヴァ』をオカルトモノとするのは乱暴だと思うけど 
十念 絵馬
『エヴァンゲリオン』という言葉は聖書の「福音」という意味ですし
零乃瀬 知里
オープニングで『カバラ生命の樹』が描かれていたり、敵が『使徒』と呼ばれていたり
九重 直行
『ロンギヌスの槍』等々オカルト的な要素をふんだんに盛り込んだストーリーだからな
八十島 小夜子
作品を知らなくてもオカルト好きなら知ってる単語よね
九重 直行
エヴァが放送された95年は、1月に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件と一連のオウム報道、そして10月にエヴァが放送開始だった
零乃瀬 知里
関東ではテレ東で夕方6時30分から放送されていたのよね…
九重 直行
エヴァは謎めいた結末が賛否両論を巻き起こすなど大論争となり、96年の放送終了後には社会現象になるほどの過熱を見せた
97年春には『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』夏には『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』が公開されるんだけれど、難解で不親切な展開が、これまた賛否両論を巻き起こすのよね
九重 直行
…で、二つの劇場版の合間の97年5月に『神戸連続児童殺傷事件』が起きる
零乃瀬 知里
いわゆる『酒鬼薔薇事件』ね
九重 直行
エヴァの主人公たちの年齢設定は14歳で、少年Aと同年代だったこともあり、サブカル誌では関連付けられて語られることもあったな 
テレビ版と旧劇場版の時系列に、平成の大災害と大事件が立て続けに起きていたのですね 
九重 直行
当時を知る者でないと、この時代の空気というか、ヤバさが分かってもらえないかもしれないけどな
八十島 小夜子
現実がオカルトを超えていた時代なのかしら
零乃瀬 知里
ノストラダムスの予言は、お小夜は怖がってたみたいだけど、実際の1999年の7の月は何事もなかったし、周りも騒いでなかった気がするわ。あたしは小学生だったけど
少なくとも、大事件になるようなことはなかったんじゃないですかね。99年にはぼくは生まれてませんけど

併せて読みたい

私見 オカルトはなぜ人々の興味を引くのか

ざっとオカルトブームの流れを語ってきました。

ではなぜ20世紀の、科学万能とも謳われた時代と相反するようなオカルト・ブームは生まれたのでしょうか?

 

永いこと人類は夏至や当時、星々の運行やら季節の移り変わりなど、生活に直結する事象を秘伝として語り継いできました。

あるいは輪廻転生、心霊、預言など、科学的な根拠の全くない価値観を信じておりました。

 

科学のない時代なので当たり前ですが。しかし産業革命以降、科学と合理主義の名のもとに神秘のヴェールは剥がされてしまうと、近代化によって奇跡や神秘が暴かれた結果、人々の心に芽生えたマグマのような不合理への希求が、いささか逆説的にではありますが、沸きだしてきます。

 

現代社会を生きる私たちには、それまで人類が直面したような生存に関わる恐怖に脅かされる機会は少なくなった代わりに、生活上の不満や将来に対する不安、心配事はむしろ増えているのと思われます。

「科学で解明できない何かがあってほしい」「今の文明社会は正しいのか?」「効率化で人間をロボットのように扱うのは間違ってるんじゃないか」「奇跡が起きてほしい」「幸運をコントロールしたい」そんな思いが人々をオカルトへの興味に駆り立たせたのではないでしょうか。

オカルトが落とした影の一つでもあるカルト宗教も、そうした人々の言い知れない不安に付けこんで勢力を拡大してきました。

もちろん日本には信仰の自由があるので、頭ごなしにカルトを否定できるものではありませんが、金銭トラブルや家族の崩壊など、宗教が絡んだ悲惨な出来事は後を絶ちません。

筆者がオカルトに興味を持ち、その歴史的な流れをざっくりと紹介したのは、20世紀の大衆社会という大きな動きの中で、オカルトの影響が決して小さいものではないと思ったからでした。

専門家ではありませんので、正確な知識を伝えられているかは不安ですが、オカルトブームの雰囲気が伝えられていたら幸いです。

00年代~10年代はこちらからご覧いただけます。

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