HSP気質がクリエイティブ業界に就いた場合の利点と注意点を、実体験をもとに考察します。
「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」という気質があるのをご存じでしょうか。
要するに敏感すぎて生きづらい気質を持つ人のことです。
おおよそ5人に1人はそうだと言われています。
大人になっても敏感で、ささいなことにも動揺したり、傷つきやすい性質を持つ人は、クリエイティブな職種に向いているように見えるでしょう。
事実、HSP気質の人が創作活動に才能を発揮したり、クリエイティブ活動が得意なのは間違いなく事実です。
しかし、適職ではあるクリエイティブ業界であろうと人と関わる仕事である以上、ストレスや苦労は避けては通れません。
10年以上、フリーランスの漫画家として収入を得てきた私の実体験をもとに、HSP気質の人が業界で感じた良かった点と困難を語ります。
この記事はHSP気質を持っている、内向的な人に向けて書きました。
HSPの方は仕事の適正で悩んでいる方が多いと思われます。少しでもお役に立てればと思っています。
イラストやデザイン、マンガなど、クリエイティブ分野で商業活動を目指されている方の参考になれば幸いです。
HSP気質の診断とHSP/HSS等の4タイプ
こちらのサイトでは、設問に答えていくとHSPの診断を行うことができ、-52~140点のスコアが表示されます。
ちなみに私は121点で、強度のHSPと診断されました。
HSPだからといって、すべての人が内向的でおとなしいわけではありません。
刺激を求めるタイプはHSS(High Sensation Seeking)と呼ばれます。
・繊細で傷つきやすいけれども、あまり危険を冒したくないタイプは、HSP/非HSS型。
・繊細で傷つきやすいけれども、冒険が大好きなタイプ、このような人はHSP/HSS型と分類されます。
これに対して非HSP型も二種類に分類できます。
・物事を必要以上に深く考えず、危険を冒したくないタイプ。淡々と生活している。社会の大半である非HSP/非HSS型。
・物事を必要以上に深く考えず、衝動的で冒険が大好き。でもすぐに飽きてしまうタイプは非HSP/HSS
おおよそ100人中
HSP=15~20人
非HSP=85~80人
HSP/HSS型は4~6人前後と、かなり少数派となっています。
人間をタイプ分けすることへの違和感と、それでもやる理由
人間は多種多様であり、その個性を4つのタイプで分けることに批判的な意見もあるでしょう。
これを書いている私自身でさえ、ある種の後ろめたさを感じているのも事実です。
自分の性格を一つのパターンに落とし込んでしまうことは、考え方の幅を狭めることにもなりかねません。
自分自身が、型にはめられることへの違和感もあります。
あなたはこのパターンだから成功する、しない。そのような意図はありません。
人によっては乱暴なラベリングと捉えられてしまう可能性もあります。
少しでも不快に思いましたら、ページを閉じてください。
以上の前提をご承知いただいたうえで、性格別に4パターンに分類した理由ですが、
あくまでもひとつの目安、傾向として考えて頂けたら幸いです。
HSP/非HSS型の漫画家がマンガ業界で苦労した点、良かった点。
私(サトミケンゴ)の場合はこのパターンになるかと思います。
(空想上では)冒険大好きですし、HSSの傾向はないとも言えませんが、何度もチャンスにしり込みしてしまいました。
ゆえに、自分を非HSS型だと仮定しています。
HSPの傾向として、感受性が強く洞察力に優れる傾向があると言われていますが、この点は創作に向いていると言えます。
良かった点は、いわゆるアイデアに詰まることはなかった点です。
作画等の技術には稚拙な点はあるものの、スランプや〆切を破ったことは10数年の商業活動で一度もありません。
私の場合、広告マンガやニュース漫画が主戦場でしたが、依頼者様の意図に沿ったイメージを提供し、おおむね好評をいただいております。
もちろん個人差はあるとは思いますが、HSP/非HSSの方はクライアント様の発注意図やイメージなどを、くみ取れることは難しくないと思いますので、多くの場合、取り柄になると思います。
ヒットは難しいかもしれませんが、創作を長く続けられる息の長いクリエイターになれると思います。
何日も家にこもって延々と作業するのに何の苦労もない人は、特にそうです。
苦労した点は、いわゆる有名商業誌などのプレッシャーにめっぽう弱かったことです。
ネーム制作で、快心だと思ったものがダメだしされてしまうと立ち直るのに非常に苦労しました。
個人的な性格にも起因するとは思いますが、強い言葉で否定されてしまうと落ち込んでしまいます。
「そんなんで落ち込んでちゃ話にならないよ。読者からはもっとキツい言葉を言われるんだし」
そんなことを実際に担当から言われましたが…
「見ず知らずの読者に言われる罵詈雑言よりも、目の前の知った人物から言われたことの方がショックです」
こんなことすら反論できなかったんだから、是非もありません。
編集者にボロクソに言われたときの対処法は以下の記事にまとめました。
担当編集者にダメ出しされた箇所を「修正」しておそるおそる再提出みたいなイメージではヒットは程遠いと痛感しています。
逆境をはねのけるほどメンタルが強くなかったのは、かなりのマイナス要因ですね。
指摘された箇所をたたき台にして「どうだ!」みたいに自信を持って再ネームを出すくらいのふてぶてしさが必要です。
この点(メンタルの脆さ、前に出る勇気)さえ克服することができれば、HSP/非HSSの方は創作稼業に向いています。
大ヒット作を生み出す怪物漫画家はHSP/HSS型か?
敏感で感受性が強いが、好奇心旺盛で冒険や刺激が大好きという、両極端な個性が共存する性質がHSP/HSS型です。
謙虚に学び自信たっぷりに発表する傾向は、もっともクリエイター向きと言えるでしょう。
彼らは家に閉じこもってばかりだと退屈するため、外の世界で新しいことを始めたり、刺激を吸収します。
すると今度は疲れてしまい、1人の時間を過ごす。そのとき、外の世界で得たことを内省する。
相反する性質を併せ持つのは、きわめてクリエイティブな資質でしょう。
私の知る限り、社会現象になったような大ヒット作をモノにした創作家は、このタイプが多いです。
HSP/HSS型は100人中6人とかなりの少数派ですが、クリエイター界隈にはゴロゴロいます。
世界的な映画監督の一人だった黒澤明監督のモットーに
「悪魔のように細心に! 天使のように大胆に!」という言葉があります。
悪魔が人を誘惑する時は、細心の注意をもって巧みに惑わす。
天使=清らかなる存在が現れる際は大胆に! 堂々と!
黒澤監督はともかくとして、この言葉こそHSP/HSS型を体現しているように思えるのは私だけでしょうか。
印象に残る創作のテーマ選びのひとつに「矛盾した概念を併存させる」というものがあります。
言い方が少し難しいので、「美少女と世界の終り」と言い換えても良いでしょう。
『風の谷のナウシカ』『新世紀エヴァンゲリオン』『魔法少女まどかマギカ』
パッと思いついただけでこれだけの作品が挙げられます。
矛盾した性質を持つHSP/HSS型は、クリエイティブ業界に向いていると言えましょう。
ただ、ひとつ弱点を挙げるとするならば、このタイプが消耗すると回復に時間がかかるようです。
また、無理をしがちなので体調を崩しやすい点も挙げられます。
良くも悪くも個性的なタイプですので、周囲に理解されないケースもあるでしょう。
事実、一見すれば社交的で活動的なタイプに誤解されますので、繊細な部分を分かってもらえないかも知れません。
担当も含め、理解者に恵まれることで爆発的に伸びる可能性を持っています。
HSPの方の疲れ対策、リラックス法は以下の記事にまとめました。
非HSP/HSS型は一発屋か、原作者タイプ?
好奇心旺盛だけど、こまかいことは気にしないタイプ。
刺激や変化を好む一方、地道な作業を続けるのが苦手なタイプです。
このタイプは社交的で愉快な人が多く、とにかく話してて楽しい印象です。
めったにない経験(武勇伝?)をされている人も多いので、創作のネタには尽きないとは思います。
しかし、マンガに限らず創作系は制作にかなり時間がかかるものです。
しかも、一定のクオリティにするためには「1万時間の法則」という言葉があるように、
ある程度モノになるまで修練の期間を必要としますので、相当の根気を必要とします。
非HSP/非HSS型はマネジメント向き
それほど好奇心が強いわけではなく、ウジウジと物事を考えないで、淡々と生活するタイプです。
社交的であり、この世の中と折り合いをつけて最適に社会生活を営む常識人と言っていいでしょう。
実はもっとも数が多い主流派でもあります。
いちばん日本社会で活躍している層でもあります。
このタイプの人々にとっては、物語やドラマは基本的に観客として楽しむもので、自らが作品を作り出すといった発想にはなかなか至らないのではないでしょうか。
もちろん、就職先(テレビ局等)によっては、彼らが作り手に回ることもありますが、基本的にはマネジメントが向いていると言えるでしょう。
コミュニケーションやバランス感覚に優れているので、それぞれの立場の意見を取り入れ、最適な答えを提示できる能力に優れています。
適応力もあり、メンタルも強いので様々な場面にも対応できるでしょう。
まとめ
いかがでしたか。
HSP気質の人とクリエイティブ業界の適性を、自身の経験も交えながら書いてみました。
この分野を目指している方の参考になりましたら幸いです。