なぜ今、澁澤龍彦をオススメするのか?
現在はネットの普及で、誰でもが簡単に情報を発信できる時代にあって、スマートフォンの画面を見れば、そこかしこに文字とコトバが溢れかえっています。
生活に役に立つ知識、ちょっとしたお得情報、「みんなの役に立つ記事」が、いつでも誰でも手軽に簡単に読める時代になりました。
一方で、「社会的には役に立つとは言い難い」ファンタジー世界や、魔法を扱った「異世界モノ」のライトノベルや漫画やアニメが産業として利益を上げています。
そんな時代に違和感を持つ人は、一定数いるのではないでしょうか?
そのような人たちにとって、最良の娯楽とは何でしょう? 現在は無名ながらも真摯に創作活動を続けている作家は数多くおりますし、過去の作品を含めて探せば読み切れないほどたくさんの名作たちが読者を待っています。
かつて澁澤龍彦(1928~87年)という作家がいました。
フランス文学者でもあり、マルキ・ド・サドを日本に紹介した翻訳者としても知られています。
本読みの方には十分に知られた大家ですが、現在の日本の文学・エンタメの方向性から最も遠い極地にいる作家と位置づけて取り上げたいと思います。
オススメ①『高丘親王航海記』
遺作となった本作は、9世紀の東南アジアを舞台にした幻想的な航海記です。
純文学ともファンタジー小説とも違う、独特の幻想小説です。
西洋文化の闇を語るフランス文学者とその影響
澁澤龍彦はジャン・コクトーやサドの翻訳家として世に出ましたが、ヨーロッパ文化を紹介するエッセイも発表し、一部で高評価を受けました。
手帳3部作ともいえる『黒魔術の手帳』『毒薬の手帳』『秘密結社の手帳』は、ヨーロッパの文化史の闇を取り上げたエッセイ集です。戦後日本(60年代末~80年代)にあっては長く他に類似の本はありませんでした。
オススメ②『悪徳の栄え』
サド侯爵の哲学小説の翻訳。
軽妙な日本語によって描かれるサド文学の世界。悪女ジュリエットのキャラクターが生き生きと描かれています。
ラノベ読者にオススメ。
オススメ③『東西不思議物語』
ふだん本をあまり読まない人のための入門用としてオススメ。
新聞連載のため短い文章ですが、軽く読めて広大な澁澤魔道の入り口を堪能できます。
オススメ④『夢の宇宙誌』
彼が最初に「自分で満足のいく仕事」と称したエッセイ集。
ホムンクルス、ゴーレム、天使について端正な文章で書かれています。
ダークファンタジー好きにオススメ!
オススメ⑤『思考の紋章学』
迷宮、円環、大地母神など東西の文学作品の根底に共通する思考を紋章のように描き出したエッセー集。
澁澤文学では初めて日本古典を題材にして書かれたものでもあります。
オススメ⑥『胡桃の中の世界』
石や螺旋、宇宙卵や紋章など、著者の好むイメージの結晶をロマネスクに膨らませた博物誌。
現実世界にうんざりしたら、是非これを!
シュルレアリスム美術を語る澁澤龍彦
澁澤龍彦はイケメンでリア充?
オススメ⑦『三島由紀夫おぼえがき』
…交流のあった三島由紀夫についてのエッセーをまとめたもの。
三島の自決の数時間後に書かれた文章は普段のクールなスタイルとは違い、浅薄なマスメディアに激昂した生々しい澁澤像が見られます。他のエッセーでは三島由紀夫とのほんわかした交流も書かれていて、澁澤ファンのみならず三島ファンにも一読をお勧めします。
まとめ
澁澤龍彦のおすすめの7冊を厳選してみました。
『高丘親王航海記』―遺作となった集大成的な作品
『悪徳の栄え』―ラノベ読者にオススメ
『東西不思議物語』―ふだん本をあまり読まない人に
『夢の宇宙誌』 ―ダークファンタジー好きに!
『思考の紋章学』―東西の文学に共通する思考を知りたい人に
『胡桃の中の世界』―現実世界から逃避したい人に
『三島由紀夫おぼえがき』―生々しい澁澤像、三島のファンにも
番外『暗黒のメルへン』
澁澤氏が気に入った幻想小説を「花束のように編んでみた」アンソロジー。
泉鏡花から小栗虫太郎、倉橋由美子まで、日本の幻想的な短編小説が読めます。
推理小説からSF作家も含めた幅広いジャンルから選定されているので、澁澤龍彦の目利きによる様々な作家の幻想小説が味わえる贅沢な一品です。