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漫画 ネームが上手くなる方法

そもそもネームって何?

ネームとは漫画の設計図であり、心臓部でもあります。

映画やアニメでいえば絵コンテ・カット割りの部分にあたります。

集団作業の映像作品とは違い、1人、ないしはきわめて少人数で制作にあたる漫画の場合

ネームの出来が作品の出来をかなり左右するもっとも大事な工程でもあります。

 

作業工程的には、プロット(草案)が出来た後、コマ割りや演出、登場人物のセリフ、構成やアングルをザックリと描き出したものです。

商業作家の場合、出来たネームを編集者もしくは依頼主に見せて確認してもらい、OKが出たら→下書き→ペン入れ→仕上げに続きます。

オカ研1話のネーム(キャラ紹介ページ)
ネームにペンを入れた状態(全くもって参考にならない単調なカット割りですが…)

漫画を構成する要素である、キャラクター、作画、ストーリー、構図、オリジナリティ等はよくある評価ポイントですが、ネーム力そのものについてはあまり大々的に語られることはないのではないでしょうか。

実際、ネームについて語るのは難しいです。

担当編集者がついたとき、いちばんやりとりを重ねるところはネームに関しての工程です。

 

世の中には「絵は描けるけどマンガが描けない人」が結構います。

逆に「絵は苦手だけど面白いマンガが描ける」人もそこそこいます。

『NEO歳時記』ネーム

『NEO歳時記』の第1話のネーム

参考までに、商業誌で連載してた時のネームでは、ここまで描き込んで担当編集者に渡していました。

私は絵に自信がなかったので、できるだけ描き込んだ方が伝わりやすいかなと思って…・

左開き雑誌なので左から読みます。

 

広告マンガなどでの依頼主が漫画に慣れていない場合、余計に細かく書き込む方が具体的な修正案をいただけるのでおすすめです。

 

漠然とコマを割ってラフを描いていくのがネームではありません。

ココがポイント

作者の意図や思いを画面に乗せて的確に表現するための特別な技術=ネームだと思ってください。

 

週刊少年ジャンプ等で連載を持つ漫画家の皆様も、とてつもないハードスケジュールの中で、もっとも時間をかけているのがネーム制作の部分であると思われます。

上手いネームとはどんなネームか。

一言でいうならば、分かりやすさです

上手いネームの条件

いつ誰がどこで何をしているかが一目瞭然であり、作者の意図をバッチリ伝えることができるマンガの設計図です

 

それが上手いネームです(言いきっちゃった)

 

この「作者の意図」というのは「どんな漫画を描きたいのか」によってまちまちですが、「バトルマンガ」ならカットの迫力と緊張感。

「恋愛マンガ」ならば登場人物の心の動き、読後感などがキチンと伝えられていることが重要です。

 

引きつける力、読ませる力もネームの段階から意識します。

筆者が手掛けている「ニュース漫画」や「広告マンガ」の場合では、依頼者様の意図をくみ取り、適切な表現ができることが求められます。

描きたいビジョンを明確に持って、最適化された表現を目指しましょう

練習方法は後述します。

超有名マンガ家のネームはどこがすごいのか分析

基本的にメガヒットを飛ばしている漫画家のネーム力は群を抜いています

ちょっとページをめくっただけでツルっと読めてしまう漫画。

そんな作品を描いている作家さんのネームは絶対にうまいと言えます。

 

マンガに興味がない人でも知っている巨匠たちのネームのどこがすごいのか少しだけ分析してみましょう。

 

藤子F不二雄氏。

言わずと知れた『ドラえもん』を生み出した巨匠です。

SF短編集は短編漫画のお手本のような完成度で何度読んでも驚かされます。

難しいことを分かりやすく描くことができる、F先生はとてつもなく頭脳明晰だったのでしょう。

セリフも少ないのに情報量が濃い、という離れ業をやってのけています。

ロングショットが多いので、いつ誰がどこで何をしているかがわかりやすいです。

 

鳥山明氏。

『Drスランプ』『ドラゴンボール』で知られる説明不要の国民的漫画家です。

抜群の画力に目を奪われがちですが、実は構成力もすごいのです。

特筆すべきはバトル描写です。

位置関係、攻撃の速度、威力などを完璧に表現しています。

バトルマンガの難しさは大ゴマを使って迫力のあるシーンを描こうとするとキャラクターの位置関係が分かりにくく読みにくくなる傾向があります。

さらに画面がゴチャゴチャしてしまうことがあるのですが、鳥山氏の画面はスッキリ見やすく、かつスピード感があって迫力がある、という完璧な演出と画面構成を見せています。

集中線と流線を巧みに使って流れるようなバトルを演出し、ときおり入る止め絵で緩急をつけています。

 

『うる星やつら』『らんま1/2』『犬夜叉』等で知られる高橋留美子氏。

表現は平易で、親しみやすく分かりやすい。パッと見て状況が分かるというのが、すさまじいネーム力です。

この凄さは読み手も描き手も意識しないとなかなか気づきません。

あっさり描いていているのでスゴさが分かりにくいかも知れませんが、パーッと読めてしまう漫画って実はすごいのです。

マンガに限らず、一部では難解な表現を良しとする風潮がありますが、個人的には真に力量が必要なのは痛快でわかりやすい表現だと思っています。

 

『鬼滅の刃』で社会現象を起こしたワニ先生こと吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)氏も、すごいネーム・漫画の描き手です。

ご本人の自画像(メガネをかけたワニ)の由来である「読者をがっちり噛んで離さない漫画」を描くことを目標としている通りにガッツリと読者の心に食い込みます。

登場人物の心象風景を掘り下げつつ、スピード感あふれた物語展開は尋常ではありません。

容赦のないシーンを描きながらも、決して偽悪趣味に陥らずに「真正面から」少年マンガとして表現できる点は本当に素晴らしいと思います。

これは技術的な面よりも、作者の人格的な面から現れているのではないかと。

クリエイターは善人であるべし、とは毛頭思いませんが、残酷なシーンを描いても品格を感じられるのは、作品の深さを際立たせるのではないかと。

 

一方マンガ好きのネームに関する話題で真っ先に上がるのが『HUNTER×HUNTER』ですよね。

冨樫義博氏に関してはコマ割り、視線誘導、時間の圧縮や開放など、ものすごく計算されています。

話も複雑で込み入っておりますし、セリフの量も尋常ではないですが、それでも売れています。

読むのに時間がかかるし難しい構成ですが間違いなくおもしろいマンガです。

矛盾するような変な言い回しですが「分かりやすい難解さ」と言いましょうか。

富樫氏ほどのネーム力、マンガ力がなかったらこの作品はとても読めたものではなくなるはずです。それくらいトリッキーな演出を行っています。

 

マンガを描くために参考になりそうなマンガを以下の記事でまとめました。

 

「絵が上手い」と「マンガが上手い」は別!

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

 

ネームが上手くなる方法ですが、その前にネームが描けるか(マンガ業界的にネームを切るとも言います)…という問題もあります。

初心者でも何となくネームが描ける人と、神絵師と呼ばれる人でもネームが描けなかったりするケースがあるのです。

誰が見ても上手い絵で、コマを割ってマンガにしても、何となく読みにくい、話が頭に入ってこない、絵はすごいけどあまり盛り上がらない、分かりにくい、面白くない、といったマンガを読んだことはあるのではないでしょうか。

 

この原因はよく言われることですが「絵が上手い」と「マンガが上手い」は別だという考え方です。

 

個人的には格闘家とサッカー選手ほど違うと思っています。

神絵師を格闘家に、漫画家をサッカー選手にたとえてみます。

格闘家ともなれば下手なサッカー選手(漫画家)よりもキック力(画力)は強いでしょう。

この格闘家(神絵師)は、サッカー(マンガ)のルールも何となく分かるので試合に出てみればそこそこ戦えます。

しかし、適切なパス回しやコーナーキックなどの練習をしていないと、なかなか面白いサッカーの試合は作れないのではないでしょうか。

もちろん世の中には漫画の上手い神絵師もいるんですけどね…

 

たとえば、『Dr.STONE』で作画を担当されているBoichi 氏は、圧倒的な作画技術のみならず、ネームや画面構成、視線誘導などの漫画力も持ち合わせた恐るべき御仁です。

バトルシーンの迫力と、今なにが起こっているかを描き込める力量には敬服するばかりです。

ココがポイント

絵が得意な人がマンガを描いて行き詰るときは、両者(マンガと絵)を切り離して考えるのがいいと思います。

ネーム上達法その①演出やカット割りを意識して映画を見る

昔の漫画技法書には必ずと言っていいほど書いてあった「映画を見ろ」は現在でも効果があるのでしょうか。

筆者のネームがうまいかどうかは置いておいて、ネーム上達のために映画を見まくるのは「あり」だと思います。

これだけ娯楽が多様化してますので、自分の好みの作品を漫然と見るだけでは得るものは少ないと言わざるを得ません。

ココがポイント

演出やカット割りを意識して映画を見ることを強くオススメします

考えながら見るポイント。

素材はハリウッド映画の大ヒット作がいいでしょう。

ハリウッドものは娯楽に徹底している分、かなりタイトな(演出・構成に無駄がない)作りになっています。

名作と言われる映画は特に無駄がありません。

 

なぜこのシーンになるのか、どうしてここはこのカットになるのか、巻き戻して何度も見るのはもちろん、スロー再生やコマ再生などを駆使して研究しましょう。

それとともに、登場人物の心の動きを追ってみましょう。

 

良いストーリーは主人公の心の変化を描いています

その辺も意識して映画を見てみましょう。

 

マイナー系の映画や、難解なアート映画を観たくなり語りたくなる気持ちは分かります。

筆者もそうでした。

しかし主には定番・王道から学ぶべきだと思います。

みんなが観ている作品の面白さのヒミツにどれだけ気付けるかが面白いマンガを描く秘訣でもあります。

定番の映画を掘り下げて観て理解することの必要性

たとえば12年の米映画『アベンジャーズ』などはバトルもののマンガを作る上では大変参考になります。

もともとがアメリカンコミックを映画化したものでもありますが、キャラの立て方、感情の動き、アクションシーン等見せ場の作り方、緩急のある演出はネーム作りに活かせるでしょう。

シリーズがたくさん出ていてすべてを見るのは大変ですので、とりあえずこの一作からでも学べる部分は多いです。

 

ストーリー、仲間、見せ方については06年公開のピクサー制作のアニメ映画『カーズ』がとても参考になると思います。

王道ストーリーの見本のような作品です。

ネームに活かすために見るポイントとしては、主人公の心の変化を見せる段取り、キャラクター同士の対立や和解等がとてもシンプルかつ的確に描かれており、限られたページ数の中でキャラクターの心の変化を描くための最高の学習素材と言えるでしょう。

アート系映画は参考にならない!

逆にネーム作りの参考にならないのが若者向けの邦画と単館上映系やヨーロッパ、南米等の文芸映画です。

これらの作品の中にはすばらしいものも多いですが、漫画の演出の勉強として考える場合、なかなか商業マンガに応用しづらいと思います。

 

イラストレーターを志す方がヨーロッパ映画などの画面のセンスの良さ情感に学ぶのは大変参考になるのですが、ネーム作りに関しては…。

職人的で的確な演出に関してはハリウッド映画の方が遥かに学べます。

新作は見なくてもいい

なお、漫画のネーム上達のために映画を利用する場合、次から次へと新作を追いかけて観る必要はありません。

あなたの描きたいジャンルに合ったお気に入りの作品を掘り下げて、「どのシーンが良かったのか10シーンを選んでその理由も考える」ということも有効です。

子供の頃好きだった映画を、作り手の視点で分析するのもネームの上達には大いに役立つはずです。

ファンの熱いまなざしと製作者の醒めた視点が、的確なネームを描くためのカギとなります。

海外ドラマも参考になります。

特に『ブレイキング・バッド』は歴史的な傑作なのでオススメです。

濃いキャラクターづくりの参考にもなりますよ。

伏線の貼り方、登場人物の心の変化など大いに参考になるので未見の人はぜひ見てみましょう。

ネーム上達法その②マンガを1話模写してみる

マンガの1話をまるまる模写したものを、自分で描いたかのように発表するのは著作権違反ですが、あくまでも個人が練習のために描くのであればメチャクチャ参考になります。

 

キャラクターや背景など細部まで模写するのではなく、コマの大きさ、枠線の斜め具合、漫画家がページに対してどのように絵を入れているかをつかむための模写です。

たとえ下書きでも24ページくらいを模写するのは大変な労力です。

特に十代の頃ですと自分の漫画をガンガン描きたいでしょうし、いくら好きなマンガ作品の模写でも、正直しんどいと思います。

ただ、やってみると描いたことのない構図やポーズなどを描くことになり、色々な気づきと共に模写をすることで自身の表現の幅が広がってゆくのが分かるはずです。

この方法はまたシチュエーションを描くためにも有効です。

たとえば戦闘シーンを描きたいけど、うまく描けない時など。

苦手なシチュエーションを描く際は練習として、好きなマンガで自分の描きたいシチュエーションのシーンを模写してみましょう。

 

ちなみに筆者は『鋼の錬金術師』のバトルシーンを模写したことがあります。

もちろん、ここで借りた表現をソックリそのまま自分の漫画に取り入れるのは著作権違反です。

自分で描くときは、シーンの流れやリズムなどを意識し、試行錯誤しながらベストの表現を探してみましょう。

 

作家としての力量が増えてくると同じシーンでも全く違うネームが作れたりもします。

ポイント

表現の引き出しを増やすためにも、漫画の1ページまるまる模写はオススメできます。

ネーム上達法その③8pくらいのネームを描く

本当は32pくらいの短編を何本も描いていくのが得られる経験値は多いのですが、はじめのうちはなかなか完成させることが難しかったり、だらだらと続いてしまうのではないでしょうか。

 

マンガは短編でも1本完成させると作者のレベルが上がります。

これは実体験ですが、筆者がマンガを描き出した頃、1年以上かけてノート5冊くらいにシャープペンで描いた250p以上の未完の大作を描いた時に得た経験値よりも、ペン入れまで仕上げた32pの完成原稿を描いた時の方が得られた経験値は多かったです。

たとえ短くても物語を完結させたときの方が、マンガ描きは成長します。

100pの連続マンガをダラダラ続けるより20pの短編を5本描いた時の方が同じページ数でも得られる経験値が多いです。

メモ

とはいえ20pのネームもなかなか大変なので、8pのマンガを描くのはどうでしょう?

 

ドラクエで例えるならば「はぐれメタル」を狩るような感じで、8ページマンガを量産してみましょう。

8pではできることは限られているので、基本的にはワンアイデア1シチュエーションで展開するマンガになると思います。

気を付けることは、マンガのキモであるキャラクターを意識して立てることです。

 

商業マンガのページ数は基本的に8の倍数なことが多いので(16p、32p、48p等)

8pが自由自在に描けるようになれば、ページの構成などが楽にできるようになります。

また、WEBを中心に漫画を発表する際でも、手ごろで読みやすいページ数なのでチャレンジしてみるといいと思います。

雑学マンガなので参考にならないかもしれませんが、私の8pマンガを公開しておきましょう。

8pでは、足りないと思う方、気に入ったアイデアやキャラができたら、8pから膨らませて大長編にしてもいいわけですし。

注意ポイント

ちなみにネーム力を鍛えるために4コマ漫画を描くのは、個人的にはおすすめしません。

なぜなら定型化されたコマよりも1ページに自由にコマを割って学んだほうが得るものが大きいと思うからです。

逆に8pマンガがモノにできれば4コマを描く技術も身に付きますので大丈夫です。

マンガを描くのに疲れたときは

マンガを描くとなると、様々な原因で落ち込むこともあるかと思います。

そんな時は気分転換ですが、マンガ描きは基本部屋に引きこもっていますので、室内で出来るリラックス法を厳選してみました。

 

独学では限界があると感じたならば、専門学校という選択肢もアリ。

マンガを描くことはとても孤独な作業なので、ひとりで描き続けるのは心細く感じることもあるでしょう。

ましてや正解も不正解もない表現手段です。

 

連載を取るために、売れるために何をすべきか、どこ(絵や構図やキャラ等)を伸ばすかは人によって千差万別です。

SNSでも神絵師からプロ漫画家の先生までアドバイスを受けることはできますが、タイミングにもよりますし個別指導というわけにもいきません。

 

そうした不安を解消するために専門学校で学ぶのもひとつの選択肢ではないでしょうか。

とかく独学だと、よほど意識を高く持たないとダラダラしがちです。

ましてや漫画家は基本フリーランスなのでリスクは大きく、進路は慎重に考えるべきことでもあります。

 

大学や専門学校に在籍中に期限を定める等、ある程度の時間制限の中でデビューを目指すのも人生設計としてはアリでしょう。

やりたいことを実現させるために、打てる手は積極的に打っていきましょう。

まとめ

ココがポイント

○ネームが上手いとは極論するならば分かりやすさ、作者の意図を的確に伝えることに尽きます。

〇大切なのはまず今描こうとしているマンガが「どんなマンガ」で、読者にどんな読後感を抱かせたいかを明確にする必要があります。

〇キャラのカッコ良さを見てほしい、恋愛のドキドキを感じてほしい、バトルの迫力を見てほしい等、ゴールを定めましょう。

○ネームの練習方法はとにかく考えながら描くこと。

〇なぜ、この演出にする必要があるのか?  他の見せ方はどうだろう? 独りよがりになってないか? 自問自答する。

 

迷った先に出た答えが良い結果になるとは限りませんが、真剣に物事に取り組んだという事実は決して無駄にはならないでしょう。

マンガの持ち込みで出版社に足を運んだ際は、こちらの記事も参考にしてください。

編集者は描き手の甘い点をガンガンついてくるので、繊細さんや敏感さん(HSP気質)には嫌な気分になることばかりです。

心を折られないように、距離感を適切に取りながらめげずに描き続けましょう。

 

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