すごい歌詞と聞いて、あなたは誰のどんな曲を連想されるでしょうか。
年代によって、人によって、聞くジャンルによって千差万別でしょう。
当記事では、歌謡曲からニューミュージック、J-POP、邦楽ロック、アニソンまで日本語で書かれた歌詞の中から「すごい歌詞」を厳選してみました。
その理由を考察して年代別に紹介していきます。
なお、著作権法第32条「引用」の条件に基づいた形で歌詞の一部を引用させていただいております。
JASRACKは「許諾がなければ歌詞の一部でもダメ」とありますが、文化庁の著作権制度の概要では以下のような記述があります。
一定の「例外的」な場合に著作権等を制限して,著作権者等に許諾を得ることなく利用できることを定めています。
引用元:文化庁 著作物が自由に使える場合
私の引用がキチンと法律に基づいているかを推し量る、試金石的な意味でも書いています。
当記事の主目的は、日本語で書かれた歌詞の奥深さを評論することです。
また、それらの歌詞を生み出した時代背景も考察していきます。
著作者の権利を侵害する意図はありませんが、どうしても必要な個所は「引用」させていただいております。
前置きが長くなりましたが、ご指摘等ございましたら お問い合わせよりご連絡お願いいたします。
毎度おなじみ80年代〜10年代まで時空を越えて巡り合った拙作『時空オカルト研究会』の4人による対話もお楽しみください。
凄い歌詞とはどこが凄いのか
私にとっての凄い歌詞とは「心を揺さぶる印象的な歌詞」です。
歌詞のコトバに意味があって、かつ独自の世界観があれば「すごい歌詞だなぁ」と思います。
比喩や暗喩などの技巧を凝らした「文学的」な歌詞も個人的にはすごいと思っています。
人によっては「共感する歌詞」がすごいと思う方もいるかもしれませんけれども、私の場合はそこまでは共感を重視しません。
私にとって、いい歌詞というのは単純に「良いな」「共感した」と思うような場合に使います。
メロディに歌詞がうまく乗っている場合も「いいな~」って思います。
私にとって凄い歌詞といい歌詞の違いは、「強く心を揺さぶられたか」どうかにあります。
スピッツの歌詞のすごさ
世間的にはどうでしょう?
たとえば、グーグルで「すごい歌詞」と検索すると関連キーワードで出てくるのが「スピッツ すごい歌詞」
関連キーワードで出るという事は、世間的にそう思われる人が多いのではないでしょうか。
忘れはしないよ 時が流れても
いたずらなやりとりや
心のとげさえも君が笑えばもう
小さく丸くなっていたこと
-出典:『楓』作詞・作曲: 草野正宗
引用した冒頭以外でも歌詞の中には一言も「楓」も「秋」という単語も使われてはいません。
なのにメロディとも相まって「秋」を感じさせる歌になっています。
この歌詞および草野マサムネ氏の作詞をシンガーソングライターの谷村新司氏は絶賛しています。
谷村氏によれば、『楓』の凄さは「歌詞とタイトルの距離感」だと言います。
自身もシンガーソングライターとして『昴』など数々の名曲を生み出してきた谷村氏の評価という点でも、スピッツのすごさが浮き彫りになります。
ちょっと難解というか、様々な解釈ができる点もスピッツの歌詞のすごいところです。
草野氏はメロディ優先で曲を作り、「歌ってて気持ちのいい歌詞」を当てはめていくそうです。
一方、スピッツの歌詞の中には「不気味な表現」や、「ダークな部分」もあります。
草野氏によれば「世間的にタブーとされる表現を引っ張り出すことに快感を覚える」そうです。
スピッツ特有の純粋さとひねくれた感じは、この辺りの性格から出てくるのではないでしょうか。
バスの揺れ方で人生の意味が分かった日曜日
-出典:『運命の人』作詞・作曲: 草野正宗
さだまさしの歌詞のすごさ
検索の話に戻ります。
「すごい歌詞」の関連キーワードには「さだまさし 歌詞すごい」とも表示されます。
ビクトリア湖の朝明け 100万羽のフラミンゴが
一斉に翔び立つ時 暗くなる空や
キリマンジャロの雪 草原の象のシルエット
-出典:『風に立つライオン』作詞・作曲: さだまさし
すごい歌詞を書くシンガーソングライターたち
すごい歌詞を書くアーティストとして、中島みゆきさんの存在が真っ先に思い浮かぶという人は少なくないでしょう。
セールス・評価共に日本を代表する女性シンガーソングライターです。
中島みゆきの歌詞のすごさ
縦の糸はあなた 横の糸は私
逢うべき糸に 出会えることを 人は幸せと呼びます
-出典:『糸』作詞・作曲: 中島 みゆき
ファイト! 闘う君の唄を 闘わない奴らが笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中を ふるえながらのぼってゆけ
-出典:『ファイト』作詞・作曲: 中島 みゆき
中島みゆきさんの歌詞は、難しい言葉を使わず、平易な言葉づかいで奥行きのある世界観を表現しています。
シンガーソングライターの書く歌詞は、自分の気持ちをそのまま表現したものが多い中で、彼女は対象に寄り添うように言葉をつむいでいます。
ときには主観的に、ときには親友の目線で、ときとして客観的に。
平易ですが強い言葉の数々は、「こんな歌を作ろう!」という明確な目的意識が強くあると考えて作詞しているのではないでしょうか。
松任谷由実の歌詞のすごさ
松任谷由実(荒井由実)さんの1stアルバム『ひこうき雲』(73年)は、一躍彼女の名前を知らしめた傑作として知られています。
まず、飛行機をひらがなで書いたセンスがすごい。
『飛行機雲』でも『ひこうきぐも』でも、曲のニュアンスと違うでしょう。
「ヒコーキ」とカタカナで書いたらオモチャっぽいというか男性性を感じます。
余談ですが『華麗なるヒコーキ野郎』(75年)という映画があります。
『紅の豚』(92年)とも関連付けられるある古き良きヒコーキ映画です。
それはともかくとして…
タイトルに『ひこうき雲』を選んだ言語センスには卓越したものを感じます。
参加ミュージシャンたちも元はっぴぃえんどの細野晴臣氏(ベース)鈴木茂氏(ギター)
後に夫となる松任谷正隆氏(キーボード)
そして元キャラメルママ(ティン・パン・アレー)の林立夫氏…
これだけの超一流のミュージシャンたちとの交流は、彼女がアマチュア時代の中学生時代からあったそうです。
この曲は、彼女の近くで起きた二つの重い出来事から着想を得たそうです。
難病の筋ジストロフィーを患っていた小学生時代の同級生が世を去ったこと。
近所で高校生の心中事件が起きたこと。
空に憧れて 空をかけてゆく
あの子の命は ひこうき雲
-出典:『ひこうき雲』作詞・作曲:荒井由実
その後、雪村いづみさんに提供される楽曲としてレコーディングまで至ったそうですが、諸般の事情で発売はされませんました。
世に出たのは73年。荒井由実さんの2枚目のシングル『きっと言える』のB面として発売されました。
個人的に思うのは、歌詞の中に「悲しい」等のネガティブなフレーズを入れないことで、昇華された悲しみを描いているように感じます。
13年に宮崎駿監督作品『風立ちぬ』の主題歌にも起用されます。
今回「すごい歌詞」の記事を書くにあたって、私だけの選曲では極端に偏る可能性もあったので、音楽に造詣が深い読者の方や、友人などからもご意見を伺いました。
そんな中で、松任谷由実さんの『BLIZZARD』 (84年)という声も挙がりました。
激しく舞い翔ぶ妖精たちが
前をゆくあなたの姿かき消す
ストックにつけた鈴の音だけが
二人をみちびくの 音のない国
-出典:『BLIZZARD』作詞・作曲:松任谷由実
地吹雪吹くゲレンデをスキーで滑り下る男女二人の心の距離感をこの上ない言葉で描いています。
※『BLIZZARD』先述の引用部分
主観→客観への視点移動により聴き手の想像力の範囲をさらに広げ、まるでその場にいるかのような感覚にさせてくれます。
-参照:読者様からいただいたメールより
生まれた年代や育った環境も違う私と読者様が、「すごい歌詞」というキーワードで同じアーティストを取り上げるのは大変興味深いので引用させていただきました。
井上陽水の歌詞のすごさ
井上陽水氏の歌詞のすごさを一言で言うならば、「歌詞はシュールなんだけど、情景がありありと感じられる」のではないかと。
PUFFY(パフィー)に提供した『アジアの純真』などもそうですが、意味はよく分からないんだけど、リズム感や押韻がとても印象的で耳に残ります。
名曲『少年時代』も、「夏」と「夢」「宵あざみ」等、印象的なフレーズから過ぎ去った夏の情景をありありと感じさせています。
テレビでは 我が国の将来の問題を
誰かが深刻な顔をしてしゃべってる
だけども 問題は今日の雨 傘がない
-出典:『傘がない』作詞・作曲:井上陽水/編曲/星勝
『傘がない』の歌詞もさまざまな解釈をめぐらせることができます。
この曲が発表されたのは昭和47年(1972年)です。
当時は全共闘運動の熱がまだ冷めやらない頃です。
この当時の若者文化のフォーマットでは、基本的に体制=悪でした。
反権威、反権力こそがヒーローで、当時の若者向けの映画にせよ劇画にせよ、主人公は基本的に政府や権力と敵対する側が主流でした。
ここで少し70年代の文化の特徴を軽く取り上げてみましょう。
70年代の若者文化の特徴「暗い!」
平成生まれが、70年代の文化にふれた時にまず感じるのは「暗い!」という一点でしょう
(古いというのはさておいて)
もう驚くほど「暗い」です。
映画にせよテレビドラマにせよ、劇画にせよアニメにせよ歌謡曲にせよ、画面の陰影まで暗めです。
しかも娯楽作品でもバッドエンドが少なくありません。
現在のエンタメでは考えられないほど「救いのない」結末の作品が多いのです。
そして突拍子もない展開や、前衛的な演出なども目立ちます。
現在のような痛快娯楽、「ファンや観客目線」の作品は、むしろ少数派でさえありました。
クリエイターの作家性(ワガママでもある)が今よりもずっと許されていた時代でした。
これは、60年代フランス映画界で大流行した芸術運動「ヌーヴェルバーグ」の影響があります。
中心人物であったジャン=リュック・ゴダール監督は、批評的な視点から既存の映画文法を脱構築し、果ては商業映画すらも否定します。
ハリウッド映画もまた、商業主義こそ否定しないものの、これまでのスター主義や単純なハッピーエンドではない映画を作り始めました。
『俺たちに明日はない』(67年)『イージーライダー』(69年米※)などに代表されるアメリカン・ニューシネマと呼ばれる作品群です。
※日本公開は70年
当然、日本の表現者たちも米仏のとんがった映像作家たちから影響を受けました。
60年代〜70年代にかけて、日本でも作家性の強い前衛的な映画やアングラ演劇などの先鋭的な文化が若者の心を魅了しました。
この動きは学生運動、左翼・新左翼系の政治活動とも連動し、政治と芸術の異様な盛り上がりを見せていました。
そんな中で歌謡曲は「体制的」などと揶揄され、フォーク/ニューミュージック系のファンたちから嫌われていました。
しかし「体制的」だと言われた歌謡曲やアイドル歌謡の世界でも暗くてシリアスなものがもてはやされました。
70年代の山口百恵と80年代の松田聖子を比べれば一目瞭然でしょう。
キャンディーズやピンクレディーなどは、むしろ例外と言ってもいいかも知れません。
この70年代に、中島みゆき(75年〜)や新井由実(71年〜)、井上陽水(69年※)や小椋佳(71年〜)などはキャリアをスタートさせています。
彼らの歌詞の中には、そうした時代背景の影響も十分に考えられるでしょう。
それでもなお人は明るいものに惹かれるのか、吉田拓郎氏の存在は暗い時代においてなお明るく、異彩を放っておりました。
ブルーハーツの歌詞のすごさと80年代の空気感
まず、80年代の空気感を一言で言うと「空疎なお祭り騒ぎ」であったように思えます。
「空疎」というネガティブなワードをつけたのは、私が内向的な性格だからかもしれません。
ただ、ひたすら明るくパステルカラーの時代に、違和感を持っている層は一定数おりました。
80年代アニメを通じて、当時の雰囲気を知ることができる記事はこちらです。
日本のパンクロックは、そうした「無意味に明るい」時代を呪うように、過激なパフォーマンスと暗い情念で表現活動を行っていました。
遠藤ミチロウ氏による『ザ・スターリン』や、町田康(町田町蔵)氏によるINUなど、80年代パンクは主にインディーズシーンで活動していました。
このような状況下で、THE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)は、85年に結成し、87年にメジャーデビューしました。
ドブネズミみたいに 美しくなりたい
写真には写らない 美しさがあるから
-出典:『リンダリンダ』作詞・作曲:甲本ヒロト
あまりにも有名な『リンダリンダ』をはじめ、初期のメッセージ性の強い歌詞はもちろん、数多くの楽曲が現在でも高く評価されています。
なぜ、幾多のパンクバンドからブルーハーツがお茶の間の一般層まで届いたのか?
その理由は鋭い歌詞でありながらメロディーの聴きやすさも含めた全般的な「分かりやすさ」にあるかと思います。
また、著名人にもファンが多いことも知られており、彼らの楽曲は90年代青春パンクのみならずマンガや映画や文学作品などに強い影響を与えました。
ヒマラヤほどの 消しゴムひとつ 楽しいことを たくさんしたい
ミサイルほどの ペンを片手に 面白いことを たくさんしたい
-出典:『1000のバイオリン』作詞・作曲:真島昌利
ブルーハーツが解散したのは95年ですが、甲本ヒロト氏と真島昌利氏はその後も『↑THE HIGH-LOWS↓』(ザ・ハイロウズ)『ザ・クロマニヨンズ』とバンド活動を続けています。
ブルーハーツの楽曲は、00年代以降もCMやテレビドラマの主題歌等で使われ続けています。
『人にやさしく』『1000のバイオリン』『月の爆撃機』等のブルーハーツの楽曲群は、映画『リンダリンダリンダ』(05年)やアニメ『ローリング☆ガールズ』(15年)等、年代やジャンルを問わず劇中歌として使われています。
個人的な見解ではありますが、ブルーハーツの登場こそが、職業作詞家の衰退とJ-POPアーティストが「歌詞を書く」文化に良くも悪くも決定的な影響を与えたように思います。
職業作詞家のすごさ
ここで少し視点と時計の針を昔に戻して職業作詞家の話をしたいと思います。
職業作詞家とは、音楽作家事務所や作家エージェントから依頼を受けて歌詞を提供する職業の人です。
昭和の時代には、花形の職業でした。
ただ、戦後の芸能史は非常にややこしく、それ自体で何冊も本が書けてしまいます。
ここではサックリ述べるにとどめましょう。
『誰よりも君を愛す』『おふくろさん』で知られる川内康範(かわうち こうはん)氏は『月光仮面』『レインボーマン』の原作者としても知られています。
川内氏は政界とのつながりも深く、福田赳夫(ふくだたけお)元首相の秘書や、鈴木善幸、竹下登元首相など内閣総理大臣の指南役も務めました。
作詞家と言っても、永六輔さんなどのように放送作家からいつの間にかなってしまうケースもありました。
シャンソン作詞家・岩谷時子さんは昭和のシャンソン歌手・越路吹雪さんのマネージャーとしても知られています。
『愛の賛歌』は、フランスが生んだ偉大なシャンソン歌手エディット・ピアフの代表曲で、岩谷時子さんによって日本語に訳されました。
あなたの燃える手で あたしを抱きしめて
-出典:『愛の賛歌』作詞:マルグリット・モノ―/エディット・ピアフ 作曲:マルグリット・モノ― 日本語詞:岩谷時子
まさしく燃えるような愛情の歌詞になっていますが、フランス語の歌詞の内容とは相当ニュアンスが違います。
原曲の歌詞は、悲劇的で背徳的な「危険なニュアンス」が感じられる詞です。
永田文夫氏が日本語訳したバージョンの方が、原曲に忠実なものになっています。
職業作詞家と言えば阿久悠氏の存在も忘れてはならないでしょう。
上野発の夜行列車 おりた時から 青森駅は雪の中
-出典:『津軽海峡冬景色』作詞:阿久悠・作曲:三木たかし
強烈な映像を結びやすい単語からパッパッと分かりやすいイメージが連想されています。
「上野発」というフレーズからは地方出身者の帰郷という状況を喚起しています。
「夜行列車」は、とおい地方を連想させます。
「降りた時には」時間経過をすっ飛ばしてます。
「青森駅は雪の中」距離感と季節感を表現しています。
北へ帰る人の群れは誰も無口で 海鳴りだけをきいている
-出典:『津軽海峡冬景色』作詞:阿久悠・作曲:三木たかし
故郷に帰る人たちの深刻な事情を表しています。
わずか二行引用しただけで、阿久悠氏という作詞家のすごさが理解できてしまうでしょう。
なかにし礼氏もまた、すごい作詞家として昭和歌謡の時代に一時代を築きました。
彼の詞の持ち味は「イケナイ関係になった男女の心情」を艶っぼく表現しています。
そんななかにし氏ですが旧満州の出身で、子供の頃に敗戦を迎え、何度も命の危険をかいくぐりながら日本に引き揚げた経験を持っています。
この体験が原点にあるのかは分かりませんが、彼の詞から感じる「凄み」のようなものは、子供時代に死線をかいくぐったことから来ているのかもしれません。
また、「彼を歌謡曲の世界に引き入れた」昭和の大スター石原裕次郎氏にも何点も作詞を提供しています。
代表曲のひとつでもある『石狩挽歌』は、ニシン漁で昔栄えてた石狩の衰退と男女の人生がドラマチックに描かれています。
すごい歌詞のアニソン
アニメソングには、すごい歌詞がたくさんあります。
とりわけすごいと感じるのは『アンパンマンのマーチ』です。
原作者のやなせたかし氏による作詞で、11年の東日本大震災からの復興のテーマソング的な扱いも受けました。
そうだ うれしいんだ
生きる よろこび
たとえ 胸の傷が
いたんでも
-出典:『アンパンマンのマーチ』作詞:やなせたかし 作曲:三木たかし
男には
自分の世界がある たとえるなら
空をかける ひとすじの流れ星
-出典:『ルパン三世のテーマ』作詞 千家 和也 作曲 大野雄二
屍踏み越えて 進む意思を嗤う豚よ
家畜の安寧 …虚偽の繁栄 …死せる餓狼の『自由』を!
-出典:『紅蓮の弓矢』作詞・作曲:Revo
ボカロ曲はなぜ一般層には届かないのか
個人的には、ボカロ曲は大好きですごい歌詞がたくさんあると思っています。
それは作り手と受け手の距離が近く、趣味や価値観も近いために熱量を共有しやすいからでしょう。
自分が思う「すごい歌詞」は載せきれないほど、たくさんあるので別記事にしようと考えています。ご了承ください。
ここでは少し別の視点からボカロ曲をとらえようと思います。
08年くらいだったか、当時の担当編集者がボカロムーブメントについて、以下のように評していました。
「ネットの流行は基本的にマニア向け」
「どんなに才能のある作家さんでも匿名では舞台に立てない」
「万が一にもボカロPの曲がヒットして紅白に出るとしても、生身の歌手に歌わせないとお茶の間は理解しない」
「それが、メディア」
米津玄師氏がハチ名義でボカロ曲をリリースするちょっと前の話です。
当時の私はこの意見に対し「そんな価値観は過去のものになる」と異を唱えましたが、現状…複雑な思いです。
この編集者の「予言」が当たったのかどうかはまだ分かりませんけれどもね。
ただ、一部の意見かも知れませんが「メディア側がボカロをどう位置付けていたかがよく分かる」挿話ではないでしょうか。
11年に黒うさP氏が作詞作曲して発表した『千本桜』は、10年代を代表する曲と言ってもいいほどの人気曲で、カラオケの定番でもあります。
しかし13年には「『千本桜』はAKB48の曲です」「元はAKBの歌です。秋元康さんが作ったんですよ!」というデマツイートが「炎上」しました。
この裏には、ボカロファンのコア層であるネットユーザーと、テレビやコンサートを主軸とするアイドルファンの客層の違いがあるのでしょう。
その他にも、オタ友以外の人がいる中でカラオケでボカロを歌うとドン引きされることはあります。
西野カナは何故ネットユーザーに嫌われるのか
感性は人それぞれですので、どんな言葉に心揺さぶられるかは人によっては違うでしょう。
「歌詞に共感する」という点を最重視する人もいるでしょう。
西野カナさんの歌詞はネット上では何かと批判的に扱われていますが、ターゲットが明確なだけです。
共感できない人にはとことん合わない世界観なだけではないでしょうか。
潔いくらい他者(=西野カナさんの歌詞に共感できない人たち)を切り捨てています。
J-POPの世界で11年以上君臨しているわけですから、間違いなくファンの支持は受けています。
しかしネット上では西野カナさんに共感できない人が目立っています。
よく目にする批判的な意見として、「ありきたりで何のひねりもない歌詞」が挙げられます。
しかし西野カナさんのファンは「難解でひねりまくった歌詞」なんて望んでないでしょう。
理解できない上に共感できないのでは、ファンは離れてしまいます。
18年に放映された『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)において、西野カナさんは作詞手法を公開しました。
それによると、
①スタッフと曲のコンセプトを決定する。
②登場人物の詳細な設定を決める。
③友人やスタッフにリサーチを行い、「共感できるか」チェックする。
日本のJ-POPの歌詞は八方美人なところがあって、誰が聞いても不愉快に思わないフレーズが使われる傾向があります。
「光の〜」「夢を抱いて〜」「走りだす思い」みたいな。
ターゲットが明確でない場合だと、表現は無難なものになりがちで、時として陳腐になってしまうこともあります。
一方、西野カナさんはストレートに「共感してもらえるような気持ち」しか表現していません。
『トリセツ』の歌詞などはその最たるものでしょう。
この歌詞に共感する人だけに届けようと思って書いているはずです。
だから西野カナさんの歌詞がすごいと本気で思っている層は一定数いて、届くのでしょう。
ベクトルは真逆ですが、ある意味で当ブログのスタイルと同じです。
当ブログは「内向的な人のために」書かれています。
ウェーイwな人が、私の記事を読んで…
「つまんねーブログ」
「絶対コイツめんどせー奴だろ」
「めっちゃ早口で言ってそう」
とか批判されても客層が違うので全然気になりません。
もちろん実際に言われたら凹みはしますけどね…。
物語性のある歌詞
物語性のある歌詞と言えば、松本隆氏の作詞した『木綿のハンカチーフ』(75年)が有名でしょう。
上京した男性と、地方で暮らす恋人の遠距離恋愛を対話形式で描き出したことは、日本のポップス史上おそらく前例がないことでした。
松本隆氏は元・はっぴいえんど出身で、日本語ロックの創設者でもあります。
加藤登紀子さんが87年に日本語詞をつけて歌った『100万本のバラ』も、ストーリー仕立ての歌として知られています。
元々はラトビアの女性歌手アイヤ・クレレが81年に発表した歌謡曲が、なぜかロシア(当時はソ連)でヒットしてロシア語でカバーされました。
物語的な歌詞を挙げていけばキリがありませんが、個人的にはこの手の楽曲はすごくツボにはまります。
読者や友人から紹介された「すごい歌詞」の歌。
BONNIE PINK(ボニーピンク) の『A Perfect Sky』 (06)
この曲は読者の方に紹介していただいたのですが、まず歌詞の部分を引用させていただきます。
キミの胸で泣かない
キミに胸焦がさない
-出典:『A Perfect Sky』作詞:BONNIE PINK 作曲:Burning Chicken(バーニング・チキン)
この楽曲はタレントの蛯原友里さんを起用した資生堂ANESSAのCMソングとして話題になりました。
読者さまのご指摘によると、「否定の言葉を2回繰り返してから曲がスタートするのはJ-POPにはあまりない」とのことで「新鮮味を感じた」そうです。
次いでサビの部分を引用させていただきます。
砂浜でカモシカのターン
暑い夏はカーステでダンス
-出典:『A Perfect Sky』作詞:BONNIE PINK 作曲:Burning Chicken(バーニング・チキン)
ここでは実在の動物であるカモシカが取り上げられていることに対し、次のフレーズでは
天を仰いでマーメイドジャンプ
一度きりの灼熱ロマンス
-出典:『A Perfect Sky』作詞:BONNIE PINK 作曲:Burning Chicken
今度は架空の生物、人魚を登場させています。
実在・架空の生き物を「私(曲中の主人公)」のメタファーとして登場させていることも秀逸な言い回しだと思いました。
「完璧な空(A Perfect Sky)=お互いの本心を深く理解し合い、抱えていた葛藤や哀しさがなくなり、晴れ晴れとした心の中」なのかもしれない、と個人的に考察しています。
-参照:読者様からいただいたメールより
歌詞とリズムが絶妙にマッチした楽曲です。
この方は他にもたくさん「すごい歌詞」を紹介していただき、嬉しい限りです。
SHERBETSの『38 Special』とか、エレカシの『ガストロンジャー』、RHYMESTERの『The Choice Is Yours』のような社会風刺・批判系の歌詞も激しく同意です。
ちなみに社会風刺系の「すごい歌詞」ですと、私はBLANKEY JET CITY(ブランキー・ジェット・シティ)の『悪いひとたち』を考えておりました。
世代は違っても、浅井健一氏を「すごい歌詞を作る人」という認識は共通しているので、面白いと思いました。
まとめに代えて
これまで1年以上ブログを続けてきましたが、なんとこの記事が最長の分量になってしまいました。
これでも相当数紹介する曲を削りました。
最近の曲を紹介しきれなかったのは、私が古典的な人間だからかもしれません。
でも、最近の曲ですごい歌詞はたくさんあるので、いずれ紹介できればと思います。
年代別やジャンルごとに別記事として内部リンクで当記事から広げていければと考えています。
今回相談に乗ってくれた友人や読者さまに深く感謝するとともに、オススメしていただいた楽曲を十分に紹介できなかったことをお詫び申し上げます。
最後に私の親友がオススメした曲と、エピソードを紹介して当記事を締めたいと思います。
その曲はウルトラマンパワードED『この宇宙のどこかに』です。
昔 旅人は
星の地図で旅をしてた
夢に たどり着く
道があると信じていた
-出典:『この宇宙のどこかに』作詞:松井五郎 作曲:鈴木キサブロー
思春期の彼は、周囲の「リア充グループ」から価値観を否定され、マウントを取られ、同調圧力に押しつぶされそうになりながらこの曲を聴いて泣いていた時代があったとか。
内向的な人と社交的な人では、音楽の聴き方が根本的に違います。
そんなことを物語るエピソードを添えて、長すぎた記事を締めたいと思います。