今回取り上げるテーマはオカルトです。
本記事内で扱うオカルトとは、表層的な意味で使われる似非科学、ポップカルチャーのジャンル、スピリチュアル、心霊現象をさします。
オカルトが20世紀に与えた影響
ものものしい神秘学(オカルティズム)という概念が、オカルトと軽く称されて20世紀のポップカルチャーに多大な影響を及ぼしながら、あくまでも大衆文化として「科学では解明できないふしぎな現象」あるいは浅薄な流行として消費される行程を、ざっくりと語っていきたいと思います。
神秘学(オカルティズム)とは?
19世紀の神秘学思想家エリファス・レヴィ(1810-1875)
占星術、魔術、錬金術など、キリスト教的な価値観において正統ではないとされた西洋神秘主義を復権させた人物。
神秘学とはレヴィによって提唱された概念です。彼は独自の研究と著述活動が一部に評価され、近代ヨーロッパにおける魔術復興の象徴的な存在となっていきました。
ロマン派詩人でもあったレヴィの思想は彼の母国フランスにおいて象徴派詩人の先駆けとなり、ボードレールやリラダンを始めとする象徴派や文学者たちに多大な影響を与えます。
マグレガー・メイザース(1854-1918)と「黄金の夜明け団」
一方、レヴィの神秘学を実践していったのが、英国のオカルティスト、マグレガー・メイザースでした。彼は近代魔術結社の祖と言われる「黄金の夜明け団」を創設したり、魔術書「ソロモンの大いなる鍵」を編纂し、魔術の復興を実践しました。
「二十世紀最大の魔術師」アレイスター・クロウリー(1875-1947)の登場
「黄金の夜明け団」からは後に「二十世紀最大の魔術師」「世界で最も邪悪な男」とも称された魔術師アレイスター・クロウリーが頭角を現し、反社会的な言動や、規範意識を逸脱した儀式が原因で祖国イングランドから国外退去処分をされるなど、物議をかもしました。
そんな「魔術師」クロウリーですが、ロックミュージックやポップカルチャーに与えた影響力ははかり知れません。
ロックスターは魔術師がお好き?
例えば、レッドツェッペリンのギタリスト、ジミー・ペイジはクロウリーのファンを公言しており、アルバム『Ⅲ』のアナログ番には、クロウリーのモットー「Do What Thou Wilt」(己のやりたいことをなせ)が刻まれています。
デヴィッド・ボウイもクロウリーの大ファンで、70年代の彼はオカルトに熱中し、クロウリーの魔術、象徴、超人哲学に大きな影響を受けていました。
さらにはビートルズの67年のアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のジャケットにも登場しています。
このほかにもドアーズ、ブラックサバス、ブロンディ、ラモーンズのトミー・ラモーン等、錚々たるロックスターに敬意を表される存在でした。
カウンターカルチャーとしてのオカルト
60年代~70年代にかけては、米ソの冷戦が、61年のキューバ危機を経て核戦争への恐怖が差し迫り、泥沼化するベトナム戦争による大人たちへの失望が広まっていました。
若者の一部は共産主義による世界同時革命を夢見て暴力的な学生運動を繰り広げ、ニューエイジ、カウンターカルチャー、ヒッピームーブメントが先進国を席巻し、既成の文化に取って代わるほどの勢いで急速に拡大していった時期です。
このような不穏な時代背景を受けて、オカルトブームは世界的な潮流となりました。
オカルトが世界的にブームだった70年代。
昭和30年代~40年代。高度経済成長期だった日本ですが、変わりゆく街並みや排気ガス、交通事故死者数は年間1万人を超え、交通戦争と言われたほどでした。
多くの人の生活が豊かになっていく半面、豊かな心が置き去りにされたように感じる人々が多かったのでしょうか? そんな人々の心のスキマに入り込むように現れたのがオカルトでした。
70年代のオカルトについて
UFO、,ネッシー、ツチノコ、超能力&スプーン曲げ、ノストラダムスの大予言、心霊写真、日本沈没、超古代文明(ムー大陸、アトランティス含む)、コックリさん、エクソシスト(悪魔祓い)等、大方のオカルトジャンルはほとんど70年代に出尽くしています。
これらの多くが、“UFOを流行らせた男”、矢追純一氏が『木曜スペシャル』で取り上げたことで広く一般に広まった現象で、70年代の日本は空前のオカルトブームが巻き起こりました。
特筆すべき1973年は戦後日本『オカルト元年』?
小松左京氏の「日本沈没」、五島勉氏の「ノストラダムスの大予言」がベストセラーとなり、心霊テレビ番組「あなたの知らない世界」も、同年夏から始まっています。
73年という年は、戦後日本における『オカルト元年』と言えるような1年でした。
テレビおよびキッズカルチャー全盛期とも重なり、連日連夜オカルト的な題材がお茶の間にあふれた狂乱のオカルトブームですが、すでに70年代にはピークを迎えていました。
当時のオカルトブームで頭角を現した『超能力少年・少女』たちの中の大多数が、インチキが暴かれたりして消えていく中でも、オカルト的な流行は一向にすたれず、78年に発生した『口裂け女』などの都市伝説が社会現象になりました。
オカ研によるオカルト座談会
古くから日本に生息するのでは伝えられているツチノコは、UMA(未確認動物)の一種です。
その姿は体が短く、ぷっくりと膨れ上がったヘビというのが一般的なイメージではないでしょうか。
現在に至るまで捕縛例はありませんが、「ツチノコ生け捕り」には現在でも賞金がかけられています。
捕まえたら賞金1億円 探すぞ! つちのこ
新潟県糸魚川市 つちのこ探検隊HPより 引用元URL http://www.nunagawa.ne.jp/tsuchinoko/seisoku.htm
80年代のオカルトについて
基本的には70年代の延長線上にあると言えるでしょう。
一般的には下火になったように見えるオカルトも、『口裂け女』などの散発的なブームによって息を吹き返し、80年代に至っても潜在的に人々の心に残り続けました。
80年代はアニメファンのためのアニメが作られるようになったり、ファミコンブームによって日本のテレビゲーム市場が急速に拡大していく時代でした。
いわゆる『おたく』という言葉が使われだしたり、ポップカルチャーの転換点でもあります。
そのような時代にオカルトはどのような流行を見せたのでしょうか?
ポップカルチャーとオカルトの親和性
これは、70年代にポップカルチャーの洗礼を浴びて育った世代が制作者として創作の現場に飛び込んだことで、ファンによるファンのための市場が生まれたことも関係があると言えます。
90年代のオカルトについて~
89年11月に起きたベルリンの壁崩壊と90年の東西ドイツ統一。
長く続いた東西冷戦構造の終結と、91年にはソビエト連邦の崩壊とロシア激動の時代を迎えつつありました。
元号が昭和から平成に改まった89年~90年にかけては、手塚治虫、美空ひばりといった昭和を代表する人物が前後して亡くなり、多くの人が過ぎゆく昭和の時代を感じました。
当時の日本は空前のバブル時代、好景気に熱狂する一方、物質的な豊かさに違和感を持った若者たちの一部は精神的なものに憧れを抱き、オカルトや新興宗教などに心のよりどころを求めていった時代でもあります。
『オウム事件』と『新世紀エヴァンゲリオン』
90年代のオカルト事情は、95年に起きた地下鉄サリン事件以前と以後で、一変しました。
この犯罪史上例を見ないオウム真理教による一連の犯罪が連日報道されたことで、オカルト的なエンターテイメントに対して自主規制が敷かれ、その手の番組やコンテンツが激減しました。
オウム事件とサブカルチャーの関連は以下の記事にまとめました。
併せて読みたい
私見 オカルトはなぜ人々の興味を引くのか
ざっとオカルトブームの流れを語ってきました。
ではなぜ20世紀の、科学万能とも謳われた時代と相反するようなオカルト・ブームは生まれたのでしょうか?
永いこと人類は夏至や当時、星々の運行やら季節の移り変わりなど、生活に直結する事象を秘伝として語り継いできました。
あるいは輪廻転生、心霊、預言など、科学的な根拠の全くない価値観を信じておりました。
科学のない時代なので当たり前ですが。しかし産業革命以降、科学と合理主義の名のもとに神秘のヴェールは剥がされてしまうと、近代化によって奇跡や神秘が暴かれた結果、人々の心に芽生えたマグマのような不合理への希求が、いささか逆説的にではありますが、沸きだしてきます。
現代社会を生きる私たちには、それまで人類が直面したような生存に関わる恐怖に脅かされる機会は少なくなった代わりに、生活上の不満や将来に対する不安、心配事はむしろ増えているのと思われます。
「科学で解明できない何かがあってほしい」「今の文明社会は正しいのか?」「効率化で人間をロボットのように扱うのは間違ってるんじゃないか」「奇跡が起きてほしい」「幸運をコントロールしたい」そんな思いが人々をオカルトへの興味に駆り立たせたのではないでしょうか。
オカルトが落とした影の一つでもあるカルト宗教も、そうした人々の言い知れない不安に付けこんで勢力を拡大してきました。
もちろん日本には信仰の自由があるので、頭ごなしにカルトを否定できるものではありませんが、金銭トラブルや家族の崩壊など、宗教が絡んだ悲惨な出来事は後を絶ちません。
筆者がオカルトに興味を持ち、その歴史的な流れをざっくりと紹介したのは、20世紀の大衆社会という大きな動きの中で、オカルトの影響が決して小さいものではないと思ったからでした。
専門家ではありませんので、正確な知識を伝えられているかは不安ですが、オカルトブームの雰囲気が伝えられていたら幸いです。
00年代~10年代はこちらからご覧いただけます。