「ヤンキー」
ほとんどの人が耳にしたことのある言葉でしょう。
主に「不良っぽい男女」を表す言葉として使われています。
しかし定義や語源や解釈については未だに定まった結論が出ていません。
「ヤンキー」とは何か。
NHK等のニュース番組ではまず耳にしない、けれどもバラエティ番組やドラマやアニメなどではよく聞かれる言葉です。
ただ、そのイメージは結構あいまいだったりするのではないでしょうか。
70年代は「ツッパリ」と呼ばれていましたが、80年代頃に「ヤンキー」と呼ばれるようになりました。
大坂から口伝したと言われています(大阪起源説については後述します)
単に不良少年を差す場合もありますが、ヤンキー特有の美意識やファッションセンスを差す場合もあります。
当記事では、人によって、時代によってあいまいな「ヤンキー」について深く考察していきます。
ヤンキーの定義
冒頭でも述べたように、ヤンキーの定義は人によって様々でしょう。
基本的には、以下のような特徴がいくつか当てはまれば、ヤンキーと言えそうです。
「威圧的な服装や髪型をしている」
「気合いの入った奴がエライという価値観」
「理屈よりも行動が大事」
「思索? なにそれ直感で決めろよ感覚重視」
「ゴツイ車にファンシーグッズを満載している」
「絆マジサイコー!」
このような精神性を好み、教養や学歴などを否定する価値観を持つ傾向があるのがヤンキーです。
彼らの多くが反知性主義で、インテリやガリ勉は嫌われます。
一方で、学はなくても自頭(じあたま)の良い人物は尊敬されます。
ヤンキーの見た目と特有な文化とは
見た目については人によって少し温度差があるのではないでしょうか。
三代目J SOUL BROTHERSをヤンキー的とみなす人もいれば、「え? 普通にカッコいいでしょ」と思う人もいます。
あるいはこちらのイラストを見て「マイルドヤンキー」だという人もいれば、「単なるヤンキー家族」と見る人もいるでしょう。
特に何も思わない人もいるでしょう。
サンリオのキャラクター『キティちゃん』はファンシーグッズです。
しかし上下スウェットに組み合わせると立派なヤンキーグッズに成り代わります。
10年くらい前の地方のショッピングモールには、このような女子がたむろしていたものでした。
昔ながらの不良はほぼ絶滅してしまいましたが、現在でもヤンキー精神は脈々と受け継がれています。
見た目はヤンキーでも、問題行動は起こさないマイルドヤンキーと呼ばれる人たちは、主に地方で活動中です。
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さて、ヤンキーの定義に戻ります。
精神科医で批評家の斎藤環氏は、ヤンキーを語る上では欠かせない人材です。
ヤンキー社会の当事者ではありませんが、思春期・青年期の精神病理学・病跡学が専門の医学博士です。
彼によれば「誰の心にもヤンキーはいる」といいます。以下に詳しく引用します。
誰の心にもヤンキーはいる。これが僕の基本的な考え方だ。素直にヤンキースタイルを生きる者もいれば、嫌悪とともにそれを〝否認〝する者もいるだろう。しかし僕の見るところ、現代はヤンキー文化のエッセンスが、かつてないほど広く拡散した時代だ。むしろ自明すぎて見えなくなっているとすら言える。
引用元:斎藤 環・著『ヤンキー化する日本』より
80年代のツッパリから、90年代のギャル、00年代のオラオラ系など時代と共にヤンキーのトレンドは移り変わってきました。
世間的にはヤンキーはダサい、時代遅れという目で見られています。
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街に出てみると、以前よりもパッと見て「ヤンキーだ!」と思う男女は以前よりも少なくなったように感じます。
しかし斎藤氏は、そんな時代の流れの中でも「ヤンキー文化のエッセンス」は、すたれるどころかむしろ盛んになる一方だという見解を示しています。
なるほど『YOSAKOIソーラン祭り』の衣装はヤンキー的です。
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渋谷のハロウィーンの仮装や、なぜかスタッフが腕を組んで横に並んだ写真を飾る有名ラーメンチェーン店にもヤンキー文化を感じます。
ドン・キホーテやMEGAドンキの商品紹介POPや店内BGM、マスコットキャラクター「ドンペン」と「ドンコ」のキャラデザも何から何までヤンキーによく似合います。
店内にポエムが飾ってある居酒屋や
「一生懸命営業中」
「心をこめて準備中」
などの看板にはヤンキー精神を感じ取ることができます。
令和時代のヤンキーについては以下の記事にまとめました。
斎藤氏はこのような「ヤンキー文化のエッセンス」を、以下のようにまとめました。
バッドセンス
キャラとコミュニケーション
アゲアゲのノリと気合い
リアリズムとロマンティシズム
角栄的リアリズム
ポエムな美意識と女性性
引用元:『ヤンキー化する日本』著・斎藤 環
角栄的リアリズムとは、理念よりも実利を求める現実主義の事です。
「約束したら、必ず果たせ。できない約束はするな。ヘビの生殺しはするな。借りた金は忘れるな。貸した金は忘れろ」
引用:田中角栄語録
小卒から田中土建工業を興し、総理大臣にまで成り上がった田中 角栄元首相には不良の経験はありません。
しかし、持ち前の「ホンネ主義」と現実主義はきわめてヤンキー的な価値観と言えるでしょう。
そう呼ばれた彼の政治手腕は「カネにモノを言わせる」部分もありました。
結果、「ロッキード事件」という「世界的な汚職事件」として世間を騒がせて総理の座を追われたのです。
それはともかくとして…。
田中角栄や矢沢永吉の「成り上がり」は、昭和の志のある若者たちに「よし俺だって!」という夢を見せました。
ヤザワや角栄を知らない世代でも元ヤンキーの実業家は決して少なくはありません。
もちろん夢破れたヤンキーたちも多いでしょう。
彼らの行動力と運、自頭の良さが結びついた時に思わぬ成功を勝ち取る底力をヤンキーたちは持っています。
ヤンキーの起源は大阪!
ヤンキーの語源については諸説あり、いまだに定まってはいません。
そもそも英単語「Yankee」は合衆国内部においては北東部(ニューヨーク等)に住む白人の俗称でもあります。
一方でアメリカ国外においてはアメリカ人全体を差す俗称です。
日本の不良を表す「ヤンキー」とは、ほとんど接点はありません。
それがなぜ不良少年を差す言葉になったのか?
一説には、70年代中〜末期・大坂のアメリカ村で派手なアロハシャツを買って繁華街に乗り出す不良少年たちを「ヤンキー」と呼んだのが起源とか。
もしくは関西圏で語尾に使われる「〜やんけ!」が、「やんき言い」がキッカケになったという説もあります。
全国的に広まったのは、83年に嘉門達夫が発表したコミックソング『ヤンキー兄ちゃんの歌』のヒットがキッカケです。
ヤンキーになる人の特徴
ヤンキーになるタイプはおよそ二種類に分けられます。
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両親や周囲がヤンキーの環境で「当たり前」のようにヤンキーになった先天的ヤンキー。
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「ヤンキーの世界」に「コレだ!」と思った後天的ヤンキー。
もちろん両親がヤンキーでも周囲がそういう環境でも、ヤンキーにならず真面目に進学していく人もいます。
何といってもネットの普及で「ヤンキーは社会的に不利」とバレてしまったからです。
現在の日本社会の風潮はそうそう「ヤンチャ」を許してはくれません。
後天的なヤンキーの多くは思春期に入るほんの少し前に「ハッ!」と気づいてしまうのです。
「ああいうの、カッコいいかも!」
親離れしたい心理もあるでしょう。
思春期の頃は、親や社会のルールに「何かが違う!」という思いに駆られることが往々にしてあります。
中二病とヤンキーとは少し性質が違います。
『異世界』や、ありもしない空想の美少女、世界の崩壊などを夢見る中二病は、あくまでも極個人的なナルシシズムを満たすものです。
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これに対し、ヤンキー文化は徹底的に現実的で社会性があります。
遅かれ早かれヤンキーにはヤンキーの仲間ができるでしょう。
そこは、「レールの上を走る親たち」とは「違う世界」です。
ヤンキーの世界は「気合い」と「根性」と「ノリ」で果てしなく盛り上がっていきます。
そして「仲間たち」と「絆」を深めて家族ぐるみの付き合いをします。
なぜ「悪」に憧れる少年少女がいるのか?
ここでは後天的にヤンキーになった人の心理を掘り下げていきましょう。
人によっては悪趣味ともとられかねない外観のものに、ヤンキーが心惹かれるのはなぜでしょう。
「反抗期」という一点で片付けるには、人間にとってもう少し深い理由がありそうです。
ギラギラ輝く威圧感たっぷりの反社会的な人物像は、力強く自由の象徴のようにも見えるかもしれません。
私たちの社会は、法律や道徳規範などのルールに基づいて(一応)円満に維持されています。
そんな社会的な動物である人間は、一方でとても凶暴で、束縛を嫌う性質も持ち合わせています。
また、人と違うことをして目立ちたい、自分が特別な存在であるとアピールしたい欲求も持っています。
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誰よりも強く、誰よりも自由(好き勝手)に生きたい!
おそらく有史以前から人間の心にはそうした欲求があったはずです。
たとえば平安時代や鎌倉時代に「鬼」に憧れたりした若者もきっといたはずです。
戦国時代の兜などにも、実にヤンキー的なデザインのものがあります。
そして近代以降は、西洋思想や哲学などの影響から、ますます自我の確立などで悩むようになります。
親のしつけが厳しすぎる家庭の子供や、教育熱心な家庭の子供がヤンキーになる(というか非行に走る)ケースもあります。
これは、プレッシャーから逃げるための現実逃避としてヤンキーになるという心理があるのではないでしょうか。
親の期待とは裏腹に、思うような成績が残せない生徒は、行き場を求めて不良グループに入ったりするパターンがあります。
「どう生きればいいのか?」
「社会のルールはとても息苦しい」
「あのダークヒーローのように束縛を振り払って自由に生きられたら…」
思春期になると、一部の人間は反社会的な行為や人に興味を抱きます。
子供向けのアニメやマンガの「正義のヒーロー」が甘く、安っぽく見えたという経験をされた方も多いでしょう。
マンガやアニメなどで、ちょっと斜に構えたアンチヒーロー、あるいはダークヒーローが人気になるのはそのためです。
実際にヤンキーになってしまう人の多くが、周囲にいた「カッコいい不良の先輩」に憧れて不良の道に足を踏み入れたりするものです。
ヤンキーの心の奥底には、「こんなに悪いオレ(あたし)すげぇだろ!」という変な優越意識があります。
次項では、この意識の裏側にある破滅願望を考察してみましょう。
悪に憧れる心の背景にある「破滅願望」について
「がんばっても報われないのなら、いっそ悪になってしまおう!」
人が悪に憧れる心の背景には、破滅願望もあるのではないでしょうか。
今も昔も、社会のルールを踏み外した者には、相応のペナルティが下されます。
日本は法治国家でありますから、犯罪者には法に則った刑罰が、裁判を通じて下されます。
不良やヤンキーだって悪いことをしたらどうなるか、薄々わかっているはずです。
それでも彼らが暴走し、時には犯罪行為を行うのはなぜでしょう。
「法律なんかにオレはビビッてねえぞ!」
という空疎な強がりもあるでしょう。
その一方で、本人に自覚があるなしに関わらず、破滅願望があるのではないでしょうか。
ほとんどの少年少女が、無条件に愛されていた子供時代とは違って、思春期には「思い通りにいかない現実」に直面します。
社会の仕組みがだんだんわかってくると同時に、主に部活などを通じて少しずつ責任も背負わされます。
駄々をこねれば許してもらえたことも、ほとんど通用しなくなっていきます。
ヤンキーの中にはキレることで自分の意見を通そうとする人がいますが、これは駄々をこねる子供の延長線上でしかありません。
上手くいかない現実に対して、「世の中そんなものなのか」と半ばあきらめのような意識も、早い人はこの時期に思うでしょう。
ままならない現実に対し、どうしたらいいか分からない。
でも、自分にはエネルギーが満ち溢れている!
もういい、壊れてもいい、無茶苦茶な何かがやりたい、という心理。
これがヤンキーのみならず思春期の破滅願望なのではないかと思います。
ヤンキーファッションの特徴
ヤンキーファッションといえば、昔は硬派な装いか、ジャージやスウェットなどのラフなスタイルかの両極端です。
威圧的な刺繍や金ぴかのブランドロゴを好む傾向もあります。
赤や黒、ショッキングピンクや紫などの色もヤンキーに好まれるでしょう。
そしてなぜか数珠のブレスレットを愛用する人がいます。
悪さを出すには14mm以上のデカい数珠が必須だとか。
00年代は、骨をくわえた犬のロゴでおなじみ? のファッションブランドGALFY(ガルフィー)も、ヤンキーファッションの定番として知られています。
「チャリで来た!」で有名になった彼らも、GALFYを買いに来た際に高くて買えなくて帰りに撮ったプリクラがネットで拡散され定番のネタ画像として広く使われました。
ヤンキーファッションについて、バーズジャパンという「悪党専門」のショップを紹介しましょう。
「凡人を秒速で悪人に!」
「悪党は一瞬で極悪人になれるお店です」
というキャッチフレーズですが、あくまでもヤンキーファッションのお店です。
内向的な人のために書かれた当ブログの読者にヤンキーは少ないとは思いますが、面白いサイトだったので紹介させていただきました。
このサイトで売っている商品をご覧になれば、ヤンキーとは何かが一発で分かると思います。
※サイトにジャンプすると音が鳴るのでご注意ください。
店長は悪役専門の俳優もしているそうです。
ヤンキーの出るテレビドラマや映画に衣装を貸し出したりもしているとか。
18年の『今日から俺は!!』にも衣装提供しているみたいですね。
16年に流行ったPPAPの衣装もこちらで製作したもののようです(現在は完売につき品切れ)
まとめ(私とヤンキーの接点)
当サイトの名物コーナーの一つでもあるヤンキー記事ですが、今回は「ヤンキーとは何か」というテーマでお送りしました。
面白いもので、ほぼ例外なくヤンキーについて客観的に書かれた文章の作者は元・不良ではありません。
単純に考えれば、元ヤンキーが書いたヤンキー論は自伝になってしまうからでしょう。
不良の経験の全くない私が、どうしてヤンキーに興味を持っているのか、面白がっているのかには理由があります。
けっこう前ですが、とある縁で(マイルドじゃない)元ヤンキーの起業家と事業をやることになったのです。
彼がやってたブライダル事業の一環として、ウェルカムボード制作やお客様ご夫婦の馴れ初めをマンガ化(冊子に)して披露宴で配る。
その事業の編集長兼マンガ家兼ヒアリング担当みたいな役割でした。
現在なら「ココナラ」で間に合いそうな案件ですけど。
学生時代はほとんどヤンキーとは接点がなかったのですが、ビジネスパートナーになるので彼らのことを理解しないといけません。
また彼の周りにいるスタッフは当然ヤンキーとギャルなので、基本的に話が噛み合いません。
「そっすか」
「やべーっすね」
「マジっすか?」
私の提案や疑問もほぼこの三語で流されてしまいます。
ギャル文字も読めないのでいちいち営業の女子(ギャル)に何度も確認を取ったり、大変でした。
でも行動力はすごいんですよ。
ただ、事務所で犬とか飼うし、香水のにおいもキツイんですよね。
彼らは年中焼肉を食べてて、忙しい時は宅配ピザ。
生命力も私の10倍くらいありそうで。
どうにか仲良くなろうとこっちも必死でしたが…。
結局、事業はポシャって、彼らとは音信不通ですが、私にとっては生まれて初めてのヤンキーと(ギャル)の接点でした。
お互いに話題は全くかみ合わなかったけど、心は通じ合えたような気がします。
「サトミさん、パネェっす!」
すごくリスペクトしてくれて、嬉しかった。
いま悪いことしてないと良いんですけど。
良い思い出のままにしておきたいので、SNS等では検索しないし、こちらから連絡することもないでしょう。
何はともあれ…
以来ヤンキーには特別の興味が出て、彼らの存在をとても面白く感じています。
当ブログでは決してヤンキーに対してバカにしたり否定したりはしていないつもりです。
ヤンキーを単純に面白がれるのは、幸いにして私が学生時代に彼らからいじめられたり、直接被害を受けることがなかったからです。
彼らにいじめられた経験がある人は、下手をすればトラウマになってヤンキーを見ただけで嫌悪感を抱きますからね。
私の友人の大多数がヤンキー嫌いを公言していますし。
自分の中にヤンキー的なモノがあるかと問われたら、正直難しいかもしれません。
普段の会話で、ほとんど「気合い」という言葉は使わないし、威圧的な格好はやっぱり苦手です。
ただ、ヤンキーを描くのと、ヤンキー漫画を読むのは大好きなんですよね。
アイキャッチ画像では、年代別ヤンキースタイルを描いてみました。